翻訳|massage
おもに手を用いて直接体表面から一定の方式と方法により力学的刺激を加え、機械的あるいは反射的にさまざまな生体反応をおこし、身体の変調を整えて病気を治療したり健康を増進させる施術をいう。
マッサージはギリシアのヒポクラテスがその重要性を説いたといわれるように、もっとも古くから行われてきた治療法の一つであり、現代の理学療法の最初のものといえる。主としてフランス、ドイツ、デンマーク、スウェーデンなどのヨーロッパ諸国で発達し、とくに北欧ではスポーツマッサージとして知られていたが、治療用マッサージとしては16世紀後半から19世紀末にかけ体系づけられた。日本にはフランス流マッサージが明治中期に伝えられたが、その後ドイツ医学の流れをくむものが採用されてきた。一方、中国で発祥したあんま(按摩)が朝鮮半島を経て伝えられ、日本独特の発展をしてきた。このマッサージとあんまは西洋医学と東洋医学という原則的な違いはあっても、その手技はよく似ており、しだいに総合されて、今日では、ともに「あん摩マツサージ指圧師、はり師、きゆう師等に関する法律」によって規制されている。ただし、リハビリテーション医学の分野などでは西洋医学からのものが主体となっており、理学療法におけるマッサージは運動療法の補助的手段として用いられ、医師の適切な指示が必要とされている。
マッサージは、神経や筋肉の解剖・生理学的知識を基に、主として手指や手のひらを用い、患者の手先や足先から心臓に向かって求心性に手技を施すのを原則とする。しかし、神経麻痺(まひ)に対しては末梢(まっしょう)神経に沿って遠心性に行うこともある。この手技により局所の静脈血やリンパの還流が促進され、同時に動脈血の流入を盛んにして血行が改善される。その結果、浸出物の吸収が促されるとともに組織や器官の代謝も盛んになり、疲労の回復を早め筋肉の機能を亢進(こうしん)させるほか、触圧刺激が神経を刺激して鎮痛的に働き、麻痺した神経の回復を促し、また内臓の機能の変調を整える効果も現れる。
以下、おもな手技について述べる。
(1)軽擦法 手のさまざまな部分を患者の皮膚に密着させ、求心性に軽くなでさする方法で、循環系に対して効果があり、患者に爽快(そうかい)感を与え精神的安静をもたらす。より強い刺激を与える他の手技の準備段階としてマッサージの最初に行われる手技である。
(2)強擦法 指先とくに母指頭(ぼしとう)を強く押し付けながら深部の組織を輪を描くように環状に、または横走性にもむ方法で、場合によっては手のひらの縁で行うこともある。局所の循環を改善して硬結(しこり)の吸収や瘢痕(はんこん)の剥離(はくり)を促進させる手技である。
(3)揉捏(じゅうねつ)法 揉捻(じゅうねん)法ともいい、筋肉の一部または筋肉群をつかみ上げながら弧を描くようにこねてもむ方法で、求心性に行う。筋肉の機能を亢進させて萎縮(いしゅく)を予防するとともに、麻痺した筋肉の機能回復と血行をよくする。
(4)叩打(こうだ)法 手首を柔軟にして手のひらや指で両手を交互に上下しながら弾力的にリズミカルにたたく方法で、一般に筋肉の走行に沿って縦軸に直角にたたく。軽く速くたたくことにより筋肉に瞬間的収縮をおこさせ、筋機能の亢進と一時的神経の興奮を促す。
(5)振戦法 振動法ともいい、手指や手のひらを皮膚に当て、正調微細な振動をおこして機械的刺激を筋肉に急速に与える方法で、作用効果は叩打法に準ずる。市販の電動マッサージ器の類はこの振戦法を応用したもので、保健用に利用される場合が多い。
(6)圧迫法 指先や手のひらを用いて皮膚の上から間欠的もしくは持続的に圧迫する方法で、その強度や時間の長短によって神経の興奮や鎮静に役だち、自律神経系に作用させることもあるが、圧迫点(つぼ)に習熟する必要がある。指圧法や整体術は、これを応用したものである。
なお、マッサージはあんまと異なり、皮膚に直接行うため、かならず衣服は脱ぎ、亜鉛華デンプンに香料などを混ぜたマッサージパウダーを皮膚に振りかけたり、ワセリンやオリーブ油などのマッサージオイルを使用する。また、マッサージの施行時間は局所で5~15分、全身で30~40分、通常1日に1回行う。
マッサージの禁忌となるものは、伝染性疾患や化膿(かのう)性疾患をはじめ、結核症、出血性循環器性疾患、悪性腫瘍(しゅよう)、全身衰弱の強いときなどであり、医師の指示に従う必要がある。
[永井 隆]
一般に、そのスポーツによって酷使される筋肉や関節を目標として行うもので、手技としては、叩打法を主としたスウェーデン式や、揉捏法や振戦法を主にしたドイツ式などの術式に分けられるが、実際にはこれらの折衷式が多く用いられている。スポーツの前に行うのはウォーミングアップに準じたものであり、わずかな休憩時間中に手早く行うのは冷えからくるけいれんや急激にくる激しい筋疲労を除く目的のものである。競技終了後は入浴などで激しい筋疲労を除いてから全身に行われ、疲労の回復を促進させる。
[永井 隆]
おもに手指や手のひらで,皮膚をさする,もむ,たたく,押すなどして行う治療法。最も古くから行われてきた治療法の一つで,東洋医学でもあんまや指圧療法などで行われてきた。西洋医学で行われる理学療法の一つとしてのマッサージは,フランス,ドイツなどで発達し,日本へは明治中期に伝えられた。
マッサージは運動療法とともに行われることが多いが,この両者は区別すべきである。マッサージには,機械的効果(圧迫と緊張),化学的効果,神経反射,心理的効果がある。血流に対する効果として,マッサージは動脈系循環を直接増大させることはないが,静脈流を押し出すようにすると心臓への還流量を増加させて,末梢への動脈血流を増大させる効果がある。これは静脈に沿った揉捏法(じゆうねつほう)と表面の軽擦法を併用して行った場合に効果が大きい。リンパ流に対する効果も認められており,もし深部リンパ管の閉塞があるときでも表在リンパ系をマッサージして,この系統の流量を増加させるので浮腫を軽減させることができる。この効果は関節他動運動や電気刺激法などと比較しても明らかに優れている。マッサージが神経系に及ぼす影響についてはまだ明らかでないが,疼痛に対してマッサージをしばらく続けると痛みの寛解に有効であることが多い。この鎮痛効果の説明としてはゲートコントロール説gate control theoryがあり,マッサージが太い神経繊維のインパルスを増して,痛みに対する門を閉ざす結果になるためと考えられる。マッサージには鎮静効果も認められ,これは局所のほかに中枢への影響と推測されている。また筋疲労はマッサージにより,単なる安静によるよりも早く回復する。
損傷筋にマッサージを加えた場合には,治療しなかった場合に比べて筋は正常状態に近く保たれ,二次性産物としての繊維形成が筋繊維間に出現してこない。血管周囲に繊維増殖もなく,筋肉の萎縮をかなり防止できる。ただし除神経の筋肉にマッサージしてその萎縮を防止することは不可能である。
筋力強化は運動によらねばならないので,運動の途中にマッサージをはさんで行えば筋疲労が回復し,運動を続けることができる。
執筆者:岩倉 博光
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