家庭医学館 「急性うっ滞性乳腺炎」の解説
きゅうせいうったいせいにゅうせんえん【急性うっ滞性乳腺炎 Acute Stagnation Mastitis】
[どんな病気か]
分娩(ぶんべん)後数日たつと、乳腺内で乳汁がさかんにつくられるようになりますが、この時期には、乳管(にゅうかん)が十分に開口していません。そのため、乳汁が乳腺内にたまり(うっ滞)、あたかも炎症をおこしたときのような、さまざまな症状がおこってくることがあります。これを急性うっ滞性乳腺炎といいます。
通常は、乳管の発育が未熟で乳汁の通過が悪く、乳汁がうっ滞しがちな、授乳に不慣れな若い初産婦(しょさんぷ)の出産後1~2週間、すなわち産褥期(さんじょくき)の早期に発症することが多いものです。
急性うっ滞性乳腺炎の段階では、まだ細菌感染をおこしていませんが、手当をおろそかにすると、細菌が感染して、急性化膿性乳腺炎(きゅうせいかのうせいにゅうせんえん)(「急性化膿性乳腺炎」)となりますから、注意が必要です。
[症状]
乳房(にゅうぼう)が広範囲に腫れて、乳房全体、あるいは部分的にかたくなり、押すと痛みます。この時期は、乳房は多少熱をもちますが、全身の発熱をともなうことはありません。また、皮膚の発赤(ほっせき)(充血して赤くなる)も軽度です。もし、38℃以上の発熱がみられれば、急性化膿性乳腺炎をおこした疑いがあります。
[検査と診断]
乳房を見れば診断がつき、特別な検査は必要ありません。急性化膿性乳腺炎との鑑別がたいせつですが、急性化膿性乳腺炎は多くは発熱をともない、鑑別できます。
[治療]
治療の第一は、たまった乳汁を除去することです。まず、乳頭(にゅうとう)や乳房のマッサージ(「母乳の出をよくする乳房の手入れ」)で乳管(にゅうかん)を開き、積極的に授乳に努めるとともに、授乳後は搾乳器(さくにゅうき)で乳汁を残らず排除します。さらに、感染予防のために乳頭、乳輪(にゅうりん)の清拭(せいしき)を行ない、清潔にしておくことが重要です。
乳房の痛みや張りが解消できない場合や、症状が強い場合は、乳房を冷湿布で冷やして、消炎と一時的な乳汁の分泌抑制(ぶんぴつよくせい)につとめます。
薬物療法として、炎症をしずめるために、消炎酵素剤(しょうえんこうそざい)や抗生物質を使用することがあります。また、乳汁分泌抑制剤の使用が有効なこともあります。
[予防]
産褥初期から規則的に授乳し、そのあと必ず搾乳器かマッサージで乳汁を残らず排除することがたいせつです。乳頭の亀裂(きれつ)や乳頭のへこんだ陥没乳頭(かんぼつにゅうとう)などがあると授乳が十分できず、乳汁うっ滞をきたすので、妊娠中からの手入れがたいせつです。