単孔目を除くすべての哺乳(ほにゅう)類の乳腺(にゅうせん)開口部(乳区)にみられる突起。一般に乳腺の発達しない雄では痕跡(こんせき)的であるが、雌ではよく発達し、乳児が乳汁を吸うのに都合よくなっている。乳頭には霊長類のように乳区そのものが隆起したものと、有蹄(ゆうてい)類などのように乳区の周囲が隆起して管状の突起となり、乳腺の開口部はその底部に位置するもの(擬乳頭という)の2種がある。単孔類では体表に直接乳腺が開口している。乳頭の位置や数も動物によって異なる。霊長類は胸部の両側に1対あって、子を抱いて哺乳する。そのほか、ウシのように腹部に集中しているものから、ブタのように腋窩(えきか)、胸、腹、鼠径(そけい)の各部に散在するものもあるし、キツネザルのように肩にあったり、ヌートリアのように背中に位置する場合もある。
[守 隆夫]
乳首(ちくび)ともよばれ、乳汁を吸うのに都合よくつくられている。女性では、前胸壁で半球状に膨隆した乳房(にゅうぼう)の頂点中央部よりやや下にある円柱状の隆起物である。その位置は胸壁に投影してみると、第4肋間腔(ろっかんくう)か第5肋骨上にあたる。男性では乳房がないため、乳頭も小さいが、女性と同様、第4肋間腔か第5肋骨上に位置する。女性の乳頭の表面には多数の裂け目があり、ここに15~20個の乳管開口部がある。乳頭の皮膚には多くの神経終末が分布する。また、乳頭の周囲には、褐色の輪状部があり、これを乳輪(にゅうりん)(乳暈(にゅううん))とよぶ。褐色を呈するのは、この部分の皮膚にメラニン顆粒(かりゅう)、色素細胞があるためである。妊娠時になると乳輪の色はいっそう濃くなり、黒褐色となる。乳輪部には乳管に沿ってたくさんの平滑筋線維があり、これが収縮すると乳頭の勃起(ぼっき)がおこる。乳頭が乳輪内に陥没している状態を陥没乳頭というが、この場合は、授乳時に乳児が吸いにくいので引き出すことが必要となる。また、乳輪部には汗腺(かんせん)や乳輪腺がある。乳輪腺はアイルランドの産科医モントゴメリーW. F. Montgomery(1797―1859)にちなみモントゴメリー腺ともいう。なお、男性では思春期になると乳輪に発毛がある。
[嶋井和世]
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…このような未熟児を収容して,保護と哺育をする囊状構造物が育児囊である。この中には乳頭があるので,母親の腟(ちつ)口から出てきた裸の新生児は頭と前肢を使い,毛の中を泳ぐようなかっこうで育児囊へ向かって進む。新生児にはまだ口裂ができていないので,その口はちょうど瓶の口のような丸い形をしている。…
…哺乳類の乳腺を覆う膨らんだ部分で,その先端に乳頭papilla mammalがある。乳房はウシ,ヤギ,ヒツジなどの家畜では顕著であるが,野生の哺乳類では授乳期においてもあまり明らかでなく,乳頭によってその存在がわかる程度のものが多い。…
…最も原始的な哺乳類の単孔類のうち,カモノハシでは多数の乳腺が集合して平坦な皮膚面に直接開口し,ハリモグラでは生殖時期には開口部がややくぼみを生じ,乳囊mammary pouchを形成する。その他の哺乳類では乳頭nippleが形成され,幼児の哺乳に適した形態となる。構造上は複合胞状腺であり,分泌様式からは分泌物が細胞質の一部とともに排出される離出分泌腺である。…
…視神経を形成する繊維は,ヒトでは一側で約100万本もあるといわれている。網膜の神経繊維が集合している部位を視神経乳頭または単に乳頭ともいい,両眼からの視神経が交叉(こうさ)する部位を視交叉(視神経交叉,視束交叉)という。視神経は視神経乳頭の後方の網目状の強膜篩状(しじよう)板までは無髄であるが,それ以後は有髄となり,シュワン鞘をもたないことから,神経繊維の再生は不可能と考えられている。…
… 脊椎動物の皮膚は,重層扁平上皮からなる表皮epidermisと,膠原繊維が密に集合した強靱結合組織からなる真皮dermisの2枚1組でつくられている。真皮は乳頭papillaと呼ばれる無数の突起を表皮に向かって伸ばしており,凹凸の激しい広い接着面により,表皮と真皮は決して離れることなくぴったりくっついている。真皮と表皮には,さまざまな程度にメラニン色素を含む色素細胞が存在し,いろいろな動物の体色のもととなっている。…
※「乳頭」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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