急性胃炎,急性胃・十二指腸粘膜病変

内科学 第10版の解説

急性胃炎,急性胃・十二指腸粘膜病変(胃・十二指腸疾患)

概念
 急性胃炎は病因から急性外因性胃炎,急性内因性胃炎として分類される.一方,急性胃粘膜病変(acute gastric mucosal lesion:AGML)は上腹部症状と胃粘膜所見から提案された疾患概念である(Katzら,1968).この2つの疾患概念の病因や主症状に差異はないが,内視鏡検査で急性潰瘍を示唆する所見や広範な出血びらんを認める場合,AGMLと診断することが多い.病変が胃にとどまらず十二指腸球部,十二指腸下降脚に及ぶ場合は急性胃・十二指腸粘膜病変(AGDML)とよぶ.食道粘膜に及ぶ場合もあるがAGMLの部分所見としてとらえる場合が多い.
病因・分類
 甚大な身体的ストレスで発症する急性潰瘍を主体とする病変も広義のAGMLに含める場合が多い.熱傷後のCurling潰瘍,頭部損傷後のCushing潰瘍などがこれに相当する. 非ステロイド系抗炎症薬(NSAIDs)や,アスピリン,抗癌薬,アルコール,腐食性物質の誤飲,鉄剤の内服も原因となる.内視鏡検査後のHelicobacter pylori感染,アニサキス症やウイルス感染症によってもAGMLが発症する.アニサキス症はイカ,サバなどの生食があり,上部消化管内視鏡検査でアニサキス虫体を見いだせば診断される(図8-4-4).健常者におけるサイトメガロウイルス感染に伴うAGMLやヘルペスウイルス,EBウイルスによる急性胃炎も報告されており,原因が特定されない場合,組織生検や抗体の測定も有用である.肝動脈塞栓術後の医原性AGMLも報告されている(表8-4-1).
疫学
 薬剤起因性,ストレスによるAGMLが多いとされている.甚大な身体的ストレスを伴う疾患では酸分泌抑制剤を予防的に用いる場合が多いためストレスによる急性潰瘍は減少しているものと思われる.一方で,NSAIDsや抗血小板薬を服用する患者が増加しているため,これら薬剤によるAGMLや上部消化管出血が増加しているものと思われる.
病理
 病理学的には激しい急性炎症であり,好中球を主体とした細胞浸潤,浮腫,出血,びらんがあり,潰瘍を形成する場合がある.サイトメガロウイルスによるAGMLでは胃粘膜組織で封入体が観察されると報告されており,ヘルペスウイルス感染による急性胃炎では単純ヘルペスウイルスが培養で見いだされている.
病態生理
 甚大な身体的ストレスに伴う胃粘膜の虚血性変化とその後の再灌流による虚血再灌流障害がAGML発症に関与する.虚血再灌流により活性酸素,一酸化窒素, ロイコトリエンなどさまざまな生理活性物質が遊離され炎症反応が誘導される.粘膜の微小循環における好中球の接着と粘膜内への浸潤はH. pyloriやNSAIDsによる胃粘膜傷害にも共通するメカニズムである.もう1つの機序は薬剤の直接傷害作用と,NSAIDsのような薬剤にあっては胃粘膜のプロスタグランジン(PG)合成抑制を介した胃粘膜防御機序の抑制である.PGは胃粘膜の炭酸水素,粘液分泌や微小循環の維持にきわめて重要であるが,これらがNSAIDsによって抑制されるため胃粘膜傷害が誘発されると考えられている.
臨床症状
 AGMLは急激な上腹部痛,悪心で発症し,ときに嘔吐や吐血を伴うが臨床経過は速やかである.治療はプロトンポンプ阻害薬やH2受容体拮抗薬が奏効し一般的には入院を要することは少ない.しかし,Cushing潰瘍,Curling潰瘍の場合は腹痛よりも突然の吐血や下血で見いだされる場合が多い.胃アニサキス症の場合イカ,サバなどの生食に続いて10時間以内に激しい上腹部痛,悪心で発症する場合が多い.
診断・内視鏡所見
 臨床症状からAGMLを疑ったとき,診断は上部消化管内視鏡検査で容易である.胃内に多発する不整形の出血,びらん,浮腫,不整形の急性潰瘍を認めればAGMLと診断される(図8-4-5).甚大なストレスに伴う潰瘍は胃体部に多く,胃体部小弯の深ぼれ縦走潰瘍は塹壕潰瘍(trench ulcer)と称される.薬剤起因性のAGMLは胃前庭部を中心に出血性の黒苔を伴う多発性不整形びらんや急性潰瘍を認める場合が多い.
鑑別診断
 臨床症状と内視鏡所見から診断は容易である.しかし臨床症状が乏しく,内視鏡所見で単発の不整形びらんや潰瘍を見いだしたときは①早期胃癌との鑑別が重要である.必要であれば病理診断にて鑑別する.②不整形多発潰瘍を見いだした場合はMALTリンパ腫を鑑別診断する必要がある.診断は病理診断で行い,経過観察による内視鏡検査を行えば鑑別できる.③巨大な塹壕潰瘍の場合は進行胃癌との鑑別が重要である.[坂本長逸]
■文献
Katz D, Siegel HI: Erosive gastritis and acute gastric mucosal lesion. In: Progress in Gastroenterology (Glass GB ed), pp67-96, Grune and Stratton, New York, 1968.

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

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