改訂新版 世界大百科事典 「性器不整出血」の意味・わかりやすい解説
性器不整出血 (せいきふせいしゅっけつ)
atypical genital bleeding
女性の性器からの出血(性器出血)には,生理的な子宮出血(月経)と不整(病的)なものとがある。通常,月経とは関係のない不規則な性器出血のことを性器不整(不正とも書く)出血または不整性器出血という。性器不整出血は産婦人科領域の日常診療で,高頻度に遭遇する最も重要な主訴である。
性器不整出血を主訴とする疾患は多く,悪性腫瘍を含む産婦人科疾患の全般にわたっているといえる。性器不整出血を主訴とする患者の疾患を,年齢を考慮しないでみると,機能性子宮出血,子宮頸癌,子宮腟部糜爛(びらん),子宮筋腫,産科的出血,腟炎や子宮内膜炎の頻度が高い。また,性器不整出血は全身性疾患(とくに血液疾患)の分症であることがあるので,留意しなければならない。性器不整出血の原因となる疾患は,女性の年齢によって頻度が著しく異なるので,診断や治療のうえで,性器不整出血を,性成熟期(有経期)のもの,閉経後のもの,初経前のものとに分けると便利である。また不整出血は,機能性(ホルモン性)出血と器質性出血(たとえば子宮腟部糜爛,子宮筋腫や子宮頸癌などによる)とに分けられる。
性成熟期の性器不整出血
この年代の女性では,ほとんどすべての産婦人科的性器出血が起こりうる。原因疾患の鑑別診断をする場合の最も重要なチェックポイントは,妊娠との関連性の有無,悪性腫瘍の有無,出血部位の確認(外陰,腟,頸部,体部など),腹腔内出血の有無(子宮外妊娠中絶による)である。
(1)妊娠・分娩に関連した性器不整出血 妊娠初期には切迫流産,進行流産,不全流産,子宮外妊娠,胞状奇胎などが,妊娠中期から後期には早産,前置胎盤,胎盤早期剝離(はくり)が,分娩時には頸管・会陰裂傷や弛緩出血等が,また産後には胎盤遺残,産褥(さんじよく)子宮復古不全,胎盤ポリープ,流産後子宮内膜症などがあり,これらによって不整出血する。子宮外妊娠中絶の病態はさまざまで,軽いものからショック型のものまであるので留意する必要がある。また,胞状奇胎では絨毛(じゆうもう)癌が発生することがあるので,産婦人科医による術後の厳密なフォロー・アップが必須である。
→異常分娩
(2)婦人科疾患による性器不整出血 子宮からの出血(子宮出血)が,臨床上最も重要である。機能性子宮出血は内分泌異常による出血で,間脳-脳下垂体-卵巣-子宮系すなわち性機能系のアンバランスによって発病する。月経異常として現れることが多い。器質性子宮出血の原因疾患として,良性のものでは,子宮腟部糜爛,頸管ポリープ,子宮筋腫(このうちでも,とくに粘膜下筋腫,筋腫ポリープ)や子宮内膜炎等があり,癌その他の悪性腫瘍では,子宮頸癌,子宮体癌,絨毛癌がある。子宮以外のものでは,腟炎,外陰癌,腟癌,ホルモン産生性卵巣腫瘍等がある。
上記の原因疾患を診断するためには,一般の産婦人科診察法などに加えるに,必要な検査として,妊娠反応,ダグラス窩穿刺(かせんし),基礎体温測定,尿中・血中のホルモン測定,細胞診(腟および子宮腔),組織診,コルポスコピー(腟拡大鏡診),超音波診断法(ドップラー法およびB-スコープによる診断法),子宮卵管造影法,子宮鏡診,CTスキャン等を適宜行う。
閉経後の性器出血
月経がなくなったあとで性器から出血する閉経後性器出血postmenopausal bleedingの場合には,日常臨床上,老人性腟炎による少量の出血がしばしばみられるが,まず子宮癌(頸癌,体癌)の可能性を検討することが絶対に必要である。とくに近年,子宮体癌(または子宮内膜癌)が増加しているので,通常の子宮癌検診で行う腟・頸管細胞診に加うるに,子宮腔細胞診や子宮内膜組織診を行う必要がある。そのほか卵巣癌,外陰癌,腟癌や尿道カルンケルが原因のこともある。なお閉経期には更年期出血(機能性子宮出血)がみられる。原因疾患は腟双合診・直腸診等の一般的婦人科診察のほかに,細胞診,組織診,コルポスコピー,超音波診断法やCTスキャンも適宜行う。
初経前の性器出血
外傷や腟炎・外陰炎のほかに,少量の性器出血でとくに注意すべきものは,ブドウ状肉腫と腟の腺癌clear cell adenocarcinomaである。また,早熟症で月経が異常に早く発来する場合もある。
→月経異常
執筆者:加藤 順三
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報