デジタル大辞泉
「性格検査」の意味・読み・例文・類語
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せいかく‐けんさ【性格検査】
- 〘 名詞 〙 性格を測定する検査。情緒・態度・道徳性・性向・興味・適応性、あるいは神経質か否かなど、性格の一面を明らかにしようとする検査。知能検査を併用し、質問紙法・投影法・作業法などの方法がある。人格検査。
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せいかくけんさ
性格検査
personality test
性格検査は,心理検査(心理テスト)psychological testの一種で,測定内容から,知能検査,適性検査,興味・価値・態度検査,神経心理学検査などとともに,性格や行動特性を測定する検査として分類される。
【標準化standardization】 性格検査は,分類,診断と治療などの心理臨床,自己理解,教育プログラムの評価,人事や雇用などの一般的研究での利用が考えられるが,関心のある代表的な行動の特徴をとらえ,それをカテゴリーや得点を用いて客観的に記述するには,標準化された手続きがある。この標準化には,測定論的には,検査の信頼性が高いこと,妥当性があること,検査の実施や採点方法の客観性が保たれていること,偏りのない母集団に基づいた基準尺度が構成されていることが必要となる。とくにテストを作成するときに,信頼性と妥当性を考慮する必要があり,両者は古典的テスト理論に位置づけられる。
【性格検査の種類】 性格検査は,日本では質問紙法,投映法(投影法),作業検査法に分類されることが多い。しかし,ホーガンHogan,T.P.は,⑴単文や形容詞で構成された多肢選択式テスト項目から成る客観的パーソナリティテスト,⑵臨床面接におけるアセスメント技法を基にした症状チェックリストsymptom checklist,行動評価尺度behavior rating scales,診断尺度symptom inventoryから成る臨床で用いられるツールと技法,⑶多義的ないし未完成な刺激に対する自由反応が求められ,採点に際して検査者の専門性ないし判断が介入する投映法に分類している。グレゴリーGregory,R.J.も,投映法,自己報告目録self-report inventories,行動査定behavioral assessmentの三つに分け,さらに関連技法を加えている。いずれも作業検査法に該当する分類はない。また,測定内容から包括テストと特殊領域テストに分けることもできる。いずれも,個々の検査にはそれぞれの特徴,すなわち検査理論と検査目的がある。これらを十分に考慮し,利用目的に合った検査を適切に選択し,実施する必要がある。
通常実施されている検査は,ある人のパーソナリティを一定の数量尺度またはカテゴリーシステムによって記述するための系統的・統計的な手段であると説明されるが,検査結果は一つの側面であって,その結果のみですべてが決められるわけではない。そのときの心理状態,検査者の熟練度,検査自体のもつ構造的な特徴などを考慮し,多角的な側面から検討する必要がある。とくに,検査者の熟練と経験は非常に大事であり,検査結果に大きな影響を与える。利用に際しては,検査者自身の能力と,人間的な温かさと共感性が求められる。
【質問紙法questionnaire method】 質問紙法とは,知ろうとすることを明らかにできる質問項目で構成された質問紙に回答してもらい,その結果からその人の性格を知ろうとする方法である。以下,その概要について述べる。
ミネソタ多面人格目録Minnesota multiphasic personality inventory(MMPI) 心気症尺度(Hs),抑うつ尺度(D),ヒステリー尺度(Hy),精神病質的偏倚尺度(Pd),男子性・女子性尺度(Mf),パラノイア尺度(Pa),精神衰弱尺度(Pt),統合失調症尺度(Sc),軽躁性尺度(Ma),社会的内向性尺度(Si)といった10の臨床尺度,および四つの妥当性尺度で構成されており,質問項目も550問と最も多い検査である。
エゴグラムegogram アメリカの精神分析医バーンBerne,E.の心理学理論に基づき,その弟子のデュセイDusay,J.M.によって考案されたものである。自我状態がP(parent,親的自我),A(adult,おとなの自我),C(child,子どもの自我)で構成されており,それらを評定することによって自我状態を知ることができる検査である。
ビッグ・ファイブ(性格の5大因子)検査 ビッグ・ファイブBig Fiveは神経症傾向,外向性,経験への開放性,調和性,誠実性の五つの因子で構成されており,それらを評定することで性格を知ろうとする検査である。すでにいくつかの検査が標準化されている。
モーズレイ人格目録Maudsley personality inventory(MPI) モーズレイ性格検査ともいう。外向性尺度項目(E),神経症的傾向尺度項目(N),中性項目,虚偽発見尺度項目(L)の全80項目から構成されており,外向性-内向性の程度と神経症的傾向を知ることができる検査である。
16PF 正式にはThe sixteen personality factor questionnaireと表記する。キャッテルCattell,R.B.が開発したもので,A:情感,B:知能,C:自我強度,E:支配的,F:衝動性,G:公徳心,H:大胆,I:繊細,L:猜疑心,M:空想性,N:狡猾,O:罪責感,Q1:抗争性,Q2:自己充足,Q3:不安抑制力,Q4:浮動性不安という16の因子で構成されており,それらを評定することで性格を知ろうとする検査である。
矢田部-ギルフォ一ド性格検査Yatabe-Guilford personality inventory(Y-G性格検査) これは,ギルフォードGuilford,J.P.の理論に基づき,矢田部達郎によって作成された。⑴抑うつ性,⑵気分の変化,⑶劣等感,⑷神経質,⑸客観的,⑹協調的,⑺攻撃的,⑻活動的,⑼のんきさ,⑽思考的内向,⑾支配性,⑿社会的内向の12特性によって構成されたものであり,それらを評定することによって性格を知ろうとする検査である。広く用いられているが,回答者の意図的な反応歪曲に弱いという欠点がある。
コーネル・メディカル・インデックスCornell medical index(CMI) 医学的面接の補助手段として,初診時に短時間で患者の状態を把握するための問診表として作成されたチェックリストであり,⑴目と耳,⑵呼吸器系,⑶心臓脈管系,⑷消化器系,⑸筋肉骨格系,⑹皮膚,⑺神経系,⑻泌尿生殖器系,⑼疲労度,⑽疾病頻度,⑾既往症,⑿習慣という身体的自覚症状と,①不適応,②抑うつ,③不安,④過敏,⑤怒り,⑥緊張という精神的自覚症状で構成されている検査である。精神症状だけでなく,身体症状も加えた両面からスクリーニングできるのが特徴である。また,情緒障害の評価としても有力な手がかりとして用いられる。現在では,心身症や情緒障害の発見の手がかりとして用いられることが多く,職場のメンタルヘルスに関するアセスメント手段として広く用いられている。
【投映法projective technique】 投影法とも書く。なんらかの刺激を被検者に示し,その刺激に対する反応からその人の性格をとらえようとする検査法である。この方法の背景理論は投影仮説といわれ,刺激が曖昧な場合,その反応は被検者のパーソナリティの力動関係に基づくとされる。リンゼーLindzey,G.は必要とされる反応の特徴に基づいて,インクのシミか文章への連想,物語または場面の構成,文章ないし物語の完成,絵または演技による表現に分けた。この方法の長所は,⑴被検者に何を測定しているかという意図がわかりにくいため,自己防衛的な操作がしづらく,結果が故意にゆがめられることが少ない。⑵被検者は内的世界を幅広く表出することができる。⑶自己認知に頼らないので,深い意識的・無意識的水準を見ることができる。短所としては,①結果を解釈するためには熟練を要する。②解釈する人の立場によって解釈が異なる場合がある。③検査に時間がかかるものが多い。④被検者が検査者をどれくらい信頼しているかが検査結果に大きく影響する。
TAT(主題統覚検査) thematic apperception testのことで,20枚程度の刺激図版から,自由に物語を作らせ,その物語の主人公の感じる欲求や圧力,行動のレベル,問題解決の方法,物語の結末を評定して性格を知ろうとする検査である。解釈をするためには熟練を要する。CATは子ども版である。
SCT(文章完成法) sentence completion testのことで,不完全な文章を呈示し,それを自由に補足させて全文を完成させ,その文章を評定することから性格を知ろうとする検査である。
P-Fスタディpicture-frustration study 欲求不満を引き起こさせるような場面が描かれている絵カードを用い,その場面で登場人物の一人としてどのように反応するかを評定することによって,性格を知ろうとする検査である。
ロールシャッハ・テストRorschach test 無作為に作られたインクのシミが何に見えるかで,被験者のものの見方,意味づけや外界とのかかわり方を知ろうとする検査である。見せる図版は10枚で,5枚は無彩色,5枚は彩色。何に見えるか以外に,シミのどこに(反応領域),どのようなものが(反応内容),どういう理由(反応決定因)で見えるかも記録し,これらの結果を基に反応構造と反応過程の分析をする。精神鑑定にも利用されている。
バウムテストBaumtest スイスの心理学者コッホKoch,K.によって創始された描画による性格検査。A4用紙に鉛筆で実のなる樹木を1本描かせ,その図を評定することでその人の性格を知ろうとする検査である。言語表出が困難な者にも,知的能力や発達の診断に用いることができるという利点がある。
20答法twenty statements test(TST) 「わたしは」に続けて文章を完成させる設問が20問あり,完成させた文章からその人を知ることができる性格検査である。最初は直ぐに文章を完成させることができるが,だんだん作りにくくなる。そのような状況で作られた文章を評定することから,その人の性格を知ろうとする検査である。
【作業検査法performance test】 作業検査法とは,被検者に簡単な一定の作業をしてもらい,そこでの実際の行動および作業経過や作業結果から性格,態度,能力を測定しようとする方法である。この方法の長所としては,⑴作業条件が明確に規定されているので実施しやすい,⑵被検者に何を測定しているかという意図がわかりにくいため,自己防衛的な反応がしづらく,結果が故意にゆがめられることが少ない,⑶ことばに障害がある被検者にも実施できる,⑷質問紙法よりも,より深い意識的・無意識的水準を見ることができる。短所としては,①結果の解釈に熟練を要する,②年少者や知的遅滞者では作業手順が理解できないと実施できない,③測定する心理的側面が限定される,④作業課題に取り組む意欲の有無が検査結果に大きく影響する。
内田-クレペリン精神検査Uchida-Kraepelin performance test 1桁の数字の連続加算作業を,1行1分で前半後半15分ずつ行ない,各行の到達量,平均作業量,加算の誤り,飛び越しの有無などを総合的に評定することによって性格を知ろうとする検査である。人の行動特性や性格特性を客観的に判定,職種の適性を見つけ出す検査として使われている。
【検査倫理】 研究における倫理は,見過ごすことができない重要な問題である。日本心理学会,日本教育心理学会,日本応用心理学会などの各学術団体ごとに倫理規程や倫理綱領を作成して,研究者に注意を喚起している。また,『事例に学ぶ心理学者のための研究倫理』や『心理学・倫理ガイドブック――リサーチと臨床』といった,研究倫理に関する書籍も出版されている。
それらの中の『公益社団法人日本心理学会倫理規程』(日本心理学会,2009)は,第1章「心理学にかかわる者の責任と義務」,第2章「研究と発表における倫理」,第3章「社会における職務上の倫理」,第4章「倫理問題の解決」で構成されており,第2章に調査研究に関する記載がある。⑴検査倫理の前提として,「調査実施者は,調査対象者の尊厳と人権を守り,調査対象者が不快な思いをしないように努め」る。⑵調査計画と内容の倫理性については,調査研究に携わる者は,「調査計画の立案,調査内容の構成,また調査票の作成にあたって,調査に含まれる各質問項目の内容および表現が,特定の立場や考え方を強調していないか,特定方向に回答を誘導していないかなど,慎重かつ厳密に検討し,中立性を保つよう心がけ」る。⑶プライバシーの保護については,「具体的な調査の実施計画と調査の内容に関して,プライバシーへの配慮が十分なされているかどうかを検討」する。⑷インフォームド・コンセントの確立のためには,「調査対象者に対して,調査の目的や内容をできるだけ正確に説明し,調査実施の正当性について十分な理解を得なければならない。また,調査への回答が,無記名回答か記名回答かを質問票に明記し,記名回答を求める場合は,その理由と記名による不利益が生じないことを説明する必要がある。さらに,調査対象者が調査への参加をあらかじめ同意している場合でも,各質問項目への回答は任意であることを事前に伝え」る。⑸調査責任者・調査実施者への明示として,「調査票には,調査責任者あるいは調査実施者の氏名,所属組織,また照会先等を明記し,調査対象者やその関係者からの問い合わせができるように」する。⑹調査データの管理については,「調査で得られたデータは,紛失,漏洩,取り違えなどを防ぐために,厳重に保管し管理しなければならない。また,調査データは,研究目的以外には使用しない」こととする。⑺調査結果のフィードバックとして,「調査結果を知りたいと望む調査対象者に対して,可能な範囲で調査結果の報告をすることをあらかじめ約束し,調査研究の終了後にこれを実行」する。⑻得られた個人情報の保護については,「調査によって得られた個人情報は,調査対象者のプライバシーを守ることを優先し,調査対象者の所属する集団・組織や関係者に漏れることがないよう,調査責任者によって厳重に保管されなければならない。なお,調査対象者の個人情報は,研究上の必要性が消失した場合には,すみやかに廃棄する」。
以上のようにていねいに説明されている。検査を実施するにあたって注意深く配慮する必要がある。とくに,プライバシーの保護,個人情報の保護,インフォームド・コンセントの確立といった点については,対象とする被検者のことを最大限に考慮しなければいけないことを繰り返し述べており,実施者の都合で物事を進めることへの警鐘ととらえるべきであろう。 →古典的テスト理論 →作業検査法 →質問紙法 →テスト →投映法
〔浮谷 秀一〕
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性格検査
せいかくけんさ
personality test
人格検査ともいう。観察法や面接法などとともに、性格を評価、診断するための方法として用いられるが、標準化されている検査であれば、他の方法より妥当性、信頼性のもっとも高い測定方法である。性格検査は次の3種類に分類することができる。
(1)質問紙法 性格、行動に関するいくつかの質問項目に「はい」「いいえ」などの回答を行うもので、目録法(インベントリー法)も、質問の形をとっていないが、実質的には同じでこの部類に入る。外向性―内向性という一つの次元でその程度をみる向性検査や、多次元の性格特性をみるミネソタ多面人格目録(MMPI)や、ギルフォードらの性格検査(たとえばYG検査)など多数の検査がある。
(2)作業検査法 一定の作業を行わせ、作業の経過や結果から性格をとらえようとするものである。内田クレペリン精神作業検査がよく知られている。
(3)投影法検査 あいまいで多義性をもった刺激材料を用い、それをどのように受け取り、意味づけを行い、どのように構成するかを手掛りとして性格を理解しようとするものである。この検査は結果の分析、解釈が他の検査よりむずかしく、熟練した専門家による実施を必要とする。代表的な検査としては、左右対称のインク・ブロット図版を用いるロールシャッハ・テスト、絵を見て空想的な物語をつくらせるTAT(主題統覚検査)をはじめ、文章完成検査、連想検査、描画法などがある。
[浅井邦二]
『岡堂哲雄著『心理検査学――臨床心理査定の基本』増補新版(1993・垣内出版)』▽『渡部洋編著『心理検査法入門――正確な診断と評価のために』(1993・福村出版)』▽『馬場礼子著『心理療法と心理検査』(1997・日本評論社)』▽『水田善次郎著『心理検査の実際』(2001・ナカニシヤ出版)』▽『沢田丞司著『心理検査の実際』改訂版(2004・新興医学出版社)』▽『本明寛著『新版 心理テスト』(社会思想社・現代教養文庫)』
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