知能を科学的・客観的に測定する用具(尺度)であり、その結果は基準となる尺度上に位置づけて示される。
知能測定の歴史は、心理学における個人差の研究と知的障害児の教育に源を発する。19世紀後半、イギリスのゴルトンは、人間における遺伝研究の必要上、個人差の測定を試みたが、感覚的機能と知能の間に積極的な関係をみいだすことができなかった。ドイツでブントに学んだのち、ゴルトンの影響を受けてアメリカに帰ったキャッテルも反応時間などと学業成績の相関を研究したが、低い相関しか得られなかった。一方、フランスでは、公教育省から就学時に遅滞児を判別する方法の開発を委託されたビネーは、医師シモンThéodore Simon(1873―1961)の協力を得て、1905年、30問からなるビネー‐シモン尺度Binet-Simon scaleを完成した。さらに、彼らは1908年には3歳から13歳までの各年齢ごとに問題を配列した年齢尺度を完成し、知能の発達程度を精神年齢(知能年齢)で表示した。彼らは1911年の改訂によって3歳から成人までの知能尺度を完成したが、彼らの新しい知能検査は多くの国に紹介され、改訂版がつくられた。とくにアメリカのスタンフォード大学のターマンは大規模な集団について標準化を行い、シュテルンが提案した知能指数による表示法を採用した。日本で鈴木治太郎(1875―1966)が標準化した実際的・個別的知能測定法はこのスタンフォード改訂ビネー‐シモン知能尺度に基づいている。ターマンはメリルMaud A. Merrill(1888―1978)とともに1937年に改訂版を発表したが、この版はL式とM式の二つの並行検査からなっている。この版は1960年および1986年に再改訂されたが、1960年の改訂版では、あとに述べる偏差知能指数が採用された。なお、日本で田中寛一(かんいち)が標準化した田中ビネー式知能検査法は1937年版に基づいている。一方、ヤーキズらは、年齢別に問題を配当するかわりに難易順に配列した問題を課して、その合計得点から精神年齢を求める点数式尺度を作成した(1915)。日本の点数式個別田中知能検査法や武政(たけまさ)ビネー式知能検査法はこのヤーキズの尺度を基礎としている。
以上述べた検査は、1986年改訂版のスタンフォード・ビネー‐シモン知能尺度以外は単一の測定値を求めるものであるが、知能を分析的に測定する検査がウェックスラーDavid Wechsler(1896―1981)によって開発された。ニューヨークのベルビュー病院で精神科の臨床に携わっていた経験から、彼は知能を診断的にとらえる成人用検査を作成した。これがウェックスラー‐ベルビュー知能尺度(1939)である。この検査は言語性と動作性の二つの知能指数が得られるほか、11の下位検査の成績がプロフィールで示される。ここでは偏差知能指数が初めて採用され、適用年齢は10歳から60歳までとなっている。この検査は1955年に改訂されて、16歳以上を対象とするウェックスラー成人知能検査Wechsler Adult Intelligence Scale(略称WAIS)となり、1981年の改訂版では対象年齢が64歳まで拡大された。同様な構成をもち5歳から15歳までを対象とする児童用検査Wechsler Intelligence Scale for Children(略称WISC)が1949年に作成され、1974年、1991年、2003年、2014年に改訂された。また、4歳から6歳半までを対象とする検査Wechsler Preschool and Primary Scale of Intelligence(略称WPPSI)が1967年に作成され、1989年、2002年、2012年に改訂された。これらの検査は大部分が日本版も標準化されている。
1980年代に認知心理学の影響を受けて新しい知能検査が現れた。その一つはA・カウフマンAlan S. Kaufman(1944― )とN・カウフマンNadeen L. Kaufman(1945― )のK-ABC(Kaufman Assessment Battery for Children)である(1983)。これは問題解決に必要な情報処理能力と獲得された知識・技能を測定するもので、前者はさらに継続的情報処理(言語的・数理的能力)と同時的情報処理(空間的・直感的能力)に分けられる。2歳6か月から16歳までを対象とする。この検査はすでに日本語版が標準化されている。他の一つは1977年のウッドコックRichard W. Woodcock(1928― )とジョンソンMary B. Johnsonによる認知能力検査Test of Cognitive Abilities(略称WJ-COG)である。これは1989年に認知心理学に基づいて改訂された。改訂版は2歳から90歳までを対象とするが、年齢によって実施する下位検査は異なる。下位検査は短期記憶、知識、思考、促進要因・阻害要因の4領域に大別される。
以上述べたのは個人知能検査であるが、集団的に実施する検査は、1917年、兵員を選抜する必要上からヤーキズを長とする委員会がオーティスArthur S. Otis(1886―1964)の案を採用して作成したものが軍隊検査Army testとして大規模に用いられた。この検査には、言語式のアルファ(α)検査と非言語式ベータ(β)検査とがある。第一次世界大戦後も集団知能検査は広く用いられた。集団知能検査も初期は単一の測定値が得られる概観的検査であったが、知能の因子分析的研究が進むにつれて、因子別の得点が求められる検査が作成されるようになった。たとえば、サーストン夫妻が1941年に作成した基本的精神能力検査Test of Primary Mental Abilities(略称PMA)は、サーストンがみいだした群因子を別々に測定している。
[肥田野直]
知能検査は実施方法から、個人(個別)検査と集団(団体)検査に分けられる。また、材料によって言語式と非言語式とに分けられる。また測定内容によって概観検査と分析的あるいは診断的検査とに分類される。そのほか、乳幼児を対象とした発達検査のほか人物画検査、立方体構成検査、迷路検査、立方体デザイン検査などの動作性検査がつくられている。これらの動作性検査は、言語的コミュニケーションが困難な場合や、障害をもつ被検査者に実施されている。国際比較研究などにはこれらの検査のほか、文化の影響のない(culture-free)あるいは文化に公平な(culture-fair)集団知能検査も用いられる。
[肥田野直]
知能検査の結果は、精神(知能)年齢による方法または同一年齢集団内の相対的位置による方法で表示される。精神年齢からは、暦年齢との比を求めて知能指数が求められる。一方、同一年齢集団内での相対的位置は知能偏差値やパーセンタイル(百分位数)順位で表される。知能偏差値は次の式で求められる。
偏差知能指数は知能偏差値の一種であるが、知能指数と同じく平均が100となる。このほか、7段階に分ける知能段階表示や、下位検査ごとに結果を表示し、個人内差異を見やすくしたプロフィール表示法もある。
[肥田野直]
『倉石精一・続有恒・苧阪良二・塩田芳久編『現行知能検査要覧』(1967・黎明書房)』▽『ウェクスラ著、茂木茂八・安富利光・福原真知子訳『成人知能の測定と評価――知能の本質と診断』(1972・日本文化科学社)』▽『V・アイゼンク著、大原健士郎監訳『知能の構造と測定』(1981・星和書店)』▽『ビネー、シモン著、中野善達・大沢正子訳『知能の発達と評価――知能検査の誕生』(1982・福村出版)』▽『辰野千寿著『新しい知能観に立った知能検査基本ハンドブック』(1995・図書文化社)』▽『佐藤達哉著『知能指数』(講談社現代新書)』
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
…知能を客観的に測定するための道具で,〈知能検査〉ともいう。その測定結果は,一定の基準にてらして数量的に表示される。…
※「知能検査」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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