医学的に明確に定義されたものではないが,発達途上にある児童の適応障害のうち,知的能力の低さ以外の要因によるもの全般をさすのに用いられる。したがって,疾患分類体系のうえではさまざまなものを含み,神経症群に属するもの,小児精神病とされるもの,子どもの自閉症,引込み思案のような,他人へのなじみにくさによる社会行動の障害,非行のような社会的逸脱行動など広い範囲に及ぶものが,情緒的表現の乏しさやゆがみ,情緒不安定といった情緒面に現れた指標を共通項とするものを情緒障害とし,さらに脳器質性障害を背景とする症例でも,状態像がそれと類似していれば情緒障害があると称することが多い。一方,学習能力障害の子どもは情緒的に激しい混乱を起こすことが少なくないが,情緒障害とはいわない。これらからわかるように情緒障害は,医学的には病名でもまた障害名でもなく,児童精神医学の疾患分類体系には情緒障害の項目はない。
日本では情緒障害の用語は福祉行政および教育行政での概念として用いられている。まず,1961年に児童福祉法の施設として情緒障害児短期治療施設が発足したさい,ここに収容すべき児童として,〈家庭,学校,近隣での人間関係のゆがみによって感情生活に支障をきたし,社会適応困難になった児童,たとえば登校拒否,緘黙,引込み思案等の非社会的問題を有する児童,反抗,怠学,金品持出し等の反社会的問題行動を有する児童,どもり,夜尿,チックなどの神経性習癖を有する児童〉(児童福祉審議会意見書)と述べられたことに始まる。そのさい〈これと行動面で類似する児童であっても精神薄弱,精神病,脳器質障害,自閉症および自閉症的傾向を有する児童は(別の施設で扱うことになるため)除外する〉とされているように,情緒障害の概念は児童福祉施設政策上の補完的なものとして述べられている。一方,文部省による65年刊行の《心身障害児の判別と就学指導》にはじめて情緒障害児という用語を用いて,上記とほぼ同じような子どもにこの名称が与えられた。しかし,その後発足した情緒障害学級には,そこで除外された自閉症児や行動異常の著しい精神遅滞児がおもな対象になっていることが多く,教育行政上登場した概念であることがわかる。
執筆者:中根 晃
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