性格発達(読み)せいかくはったつ(英語表記)personality development

最新 心理学事典の解説

せいかくはったつ
性格発達
personality development

性格発達とは,気質といわれる個人差の初期値を基に,養育者や文化・社会の影響を受けながら,性格が形成されていく過程である。

【遺伝と環境heredity and environment】 性格発達について論じられてきた「遺伝か環境か」といった単一要因説,「遺伝も環境も」といった相互作用説や相乗的相互作用説などの論争は,古くて新しい問題である。この遺伝と環境,言い換えれば氏か育ちかnature versus nurtureという問題についての論争は,容易に決着がつくということはなく,現在ではこれらの要因がどの程度,どのくらいの割合で寄与しているかに論点が移っている。人間は,23対46本の染色体の上に2万個を超す遺伝子から作られている。遺伝子の物質的基礎であるDNA(デオキシリボ核酸Deoxyribonucleic acid)を構成するのが,4種類の塩基(アデニン,チミン,グアニン,シトシン)である。そして1人分の遺伝子セット(ヒトゲノムgenome)は,約30億個の塩基対から構成されている。プロミンPlomin,R.(1990)を旗頭とする行動遺伝学behavioral geneticsは,双生児法twin studiesや養子法adoption studiesを用いて遺伝の影響を推定してきた。その結果,知能指数やパーソナリティの心理尺度での遺伝率heritability coefficientは,いずれも40~50%程度であることを示してきた。このことは同時に,環境要因の寄与も50%程度であることを示している。そのうち,性格に及ぼす家庭環境のうちで兄弟姉妹が共有する共有環境shared environmentsの要因は概して小さく,個人個人で異なるランダムな影響として非共有環境nonshared environmentsが大きいことがわかっている(図1)。

 わが国では,安藤寿康(2011)を中心に双生児研究が行なわれており,パーソナリティ特性を表わすビッグ・ファイブBig Five(性格の5大因子)で,五つのいずれの次元でも一卵性双生児monozygotic twins(MZ)間の相関が二卵性双生児dizygotic twins(DZ)間よりも高く,遺伝の影響があることが示されている(416ページ図2)。近年では,分子遺伝学molecular geneticsの分野で,遺伝的多型genetic polymorphismとよばれる共通の遺伝子の変動を明らかにする試みもなされている(Canli,T.,2008)。パービンPervin,L.A.(2003)は,環境の中でも文化の影響が大きいことを指摘している。「文化はパーソナリティのさまざまな側面に影響を与えている。たとえば,あることを成し遂げるのに,個人の努力が大切か集団の協力が大事か,成功を仕事の目標として見るか家族の目標として見るか,などは文化によって異なっている。文化は,われわれが許容でき適切であると考える社会的行動についての基準standardを通して,他者と相互作用する方法に影響している」と述べている。

【家庭・学校・友人】 子どもが,社会的行動の基準を獲得していく場として,家庭や学校があり,また友人関係などがある。まず家庭familyでは,親は心理的にプラスの環境を作り出すことで子どもの可能性を引き出すことができる。社会化の過程socialization processで親は中心的な役割を果たす。子どものパーソナリティ発達における親の役割に関する理論は,社会化の過程の三つの一般的なモデルによって導かれてきた。一つは,親が子どもに一方向的な影響を与えるという一方向的なモデルunidirectional modelである。この考え方は,フロイトFreud,S.の視点だけではなく,サイモンズSymonds,P.M.(1939)やバウムリンドBaumrind,D.(1991),さらにはホフマンHoffman,M.L.(2000)たちの養育態度parenting stylesの研究につながっている。また,バンデューラBandura,A.(1986)の社会的学習理論social learning theoryとも一貫していた。つまり,親のモデリングmodelingと強化reinforcementを通して,子どもの心理的な発達が遂げられるというものである。それに対し,子どもも社会化の過程の中で役割を果たしているとする考え方によって,相互作用的なモデルinteractive modelが出された。その代表的な考え方は,トーマスThomas,A.とチェスChess,S.(1977)の「相性の良さgoodness of fit」である。つまり,親の養育実践と子どもの気質temperamentの相性が,その後の子どもの発達にとって重要であるとするものである。手のかからない子easy child,何をするにも時間がかかる子slow to warm-up child,難しい子difficult childという典型3タイプを挙げ,それぞれが親の相性との関係により,良い点を伸ばすことにもなれば,問題を引き起こすこともあると指摘している。

 さらに社会化の相乗的相互作用モデルtransactional modelでは,子どもを子ども自身が受ける養育行動を形成する能動的な作用者active agentsとみなしている。サメロフSameroff,A.(1975)らによって提唱された考え方であり,子どもと養育者の影響が時間の経過の中で互いに作用し合い,後のパーソナリティが形成されていくとする考え方である。パターソンPatterson,G.R.(1982)は,「親が子どもの行動を形成し,また子どもが親の行動を形成する」過程を指摘している。

 学校schoolは,さまざまな視点から論ずることができるが,ここではメンターmentorとの関係について述べる。メンターとは,教師/生徒関係における先生,子弟関係における師匠,上下関係における先輩・上司あるいは助言をしてくれる人のことである。ローズRhodes,J.E.(2005)によれば,メンターとの関係は,相互性・信頼・共感性に特徴づけられるつながりによって,社会的-情動的発達,認知発達,同一性発達という三つの相互作用する発達過程にプラスの影響を与えている(図3)。こうした人の育成,指導方法をメンタリングmentoringという。

 最後に友人friendとの関係について述べる。仲間peerとは,自分と年齢が近く,身体的にも心理的にもまた社会的にも類似した立場にある者をいう。仲間関係peer relationshipの中でも,とくに特定の人物との間に好ましい感情をもち,お互いに心理的に支え合う親密な関係を友人関係friendshipという。ハータップHartup,W.W.(1992)は,友人関係の本質は同等であるとみなしている相手との間の互恵性reciprocityと積極的なかかわりcommitmentであると指摘している。そして友人関係は,子どもの社会化にとって四つの働きをしているとした。第1は,コミュニケーションや協同,仲間に入っていくといった基本的なスキルを獲得し洗練する社会的文脈social contextである。第2は,他者についての知識のみならず自分についての知識self-knowledgeを獲得していく情報源である。第3は,楽しんだり悩みを解決したりといった情動的・認知的な資源resourcesである。第4は,より親密な関係に必要とされる相互的な自制や親密性を模倣することによって,のちのちの対人関係の先駆けとなっていることである。友人関係の果たす役割は,発達の段階によって異なる。友人をもつことは生涯にわたる幸福感well-beingと関連する。それは,友人のアイデンティティならびに友人との関係の質に依存している。友人関係のあり方は多様である。友人関係が児童期や青年期だけでなく,高齢期までも含め,生涯を通して個人の性格発達や形成に影響を与えている。

【性格の発達段階説developmental stage theory of personality】 性格発達に関する段階説として,最もよく知られているのはフロイトの心理-性的psychosexual理論である。性的な欲動(リビドーlibido)を満たす身体部位(性感帯erogenous zone)から独自の発達段階を考え,各段階で欲動が十分に満たされなかったり,過剰だったりすると,その段階に固着fixationし,さまざまな不適応がもたらされるとする。口唇期oral phaseに固着した性格とは,外界のものを取り込む機制から,なんでも自分のものにしたがるような性格が見られるとして,自己愛傾向narcissistic personalityとの関連で記述されることが多く,依存的で流動的な性格特徴を示す(表1)。

 肛門期anal phaseとは,この時期の固着が排泄を統制することや意思へのこだわりを生じることから,倹約家,頑固,几帳面などといった特徴をもつという。男根期phallic phaseは,エディプス・コンプレックスOedipus complexが表面化する時期であり,男子と女子で性格特徴が異なる。男根期の経過をごく簡単に述べると,性器的快感の目覚め→異性の親に対する性愛的愛着,同性の親への嫉妬・敵意→去勢不安castration anxiety→エディプス・コンプレックスの抑圧,同一視identification,超自我super-egoの形成となる。

 エリクソンErikson,E.H.は,心理-社会的psychosocial理論を提起し,八つのライフサイクルlife cycleという段階を設定した。エリクソンによれば,パーソナリティ発達の第一段階は,口唇の快感が重要ではない。授乳場面における母子間の信頼あるいは不信basic trust versus mistrustの関係が発達し,それが重要であるという。同様に,肛門期では性感帯の移行だけが重要なのではない。トイレット・トレーニングtoilet trainingが重要な社会的場面であり,そこで子どもは自律autonomyあるいは恥・疑惑shame and doubtの感覚を発達させる。このように各ライフサイクルに危機crisisが存在する。なお,この危機とは「危険」という意味ではなく,道が分かれる「分岐点」とか病気が回復するか悪化するかといったときに使う「峠」といったような意味である。パービンPervin,L.A.ら(2010)は,各段階における好ましい結果と好ましくない結果を表2のようにまとめている。

 「自分とは何か」というアイデンティティの問題が最も問い直しされるのは,青年期である。マーシャMarcia,J.E.(1966)は,アイデンティティの達成状態について危機を経験しているか,人生の重要な領域である職業とイデオロギーに積極的に関与しているかという観点から,アイデンティティ・ステイタスの4類型を指摘している(表3)。①アイデンティティ達成identity achievement 幼児期からのあり方について確信がなくなり,いくつかの可能性について本気で考えた末,自分自身の解決に達して,それに基づいて行動している。自分の意思で生き方,職業,価値観などを選択し,こうした選択に関して自ら責任をもっている。真剣さ,誠実さの特徴をもち,環境に調和し,安定した人間関係をもっている。②モラトリアムmoratorium いくつかの選択肢について迷っているところで,その不確かさを克服しようと一生懸命努力している。人生に関するいくつもの可能性を前にして,アイデンティティの決定を延期しているのであり,その決定のために奮闘努力している。③フォアクロージャーforeclosure 自分の目標と親の目標の間に不協和がない。どんな体験も,幼児期以来の信念を補強するだけとなっている。危機を経験していないにもかかわらず,特定の生き方,職業,価値観などに積極的に関与している。親や年長者などの価値観を吟味することなく無批判的に自分のものとして受け入れており,主体的に選び取ったものではない。一見アイデンティティ達成のように見えるが,自分の価値観を揺さぶられるような状況では,いたずらに防衛的になったり混乱したりする。融通の利かなさ,権威主義的といった硬さrigidityが特徴である。④アイデンティティ拡散identity diffusion 危機の有無にかかわらず,積極的関与ができない。自分の人生について責任をもった主体的な選択ができずに途方に暮れている状態であり,自己嫌悪感と無気力によって特徴づけられる。二つのタイプがあり,危機を経験していないタイプは,今までほんとうに何者かであった経験がないので,何者かである自分自身を想像できない。危機を経験しているタイプは,すべてのことが可能だし,可能なままにしておかなければならないと安易に考えている。二つのタイプともに自分を見失っているところに特徴がある。アイデンティティ拡散状態の症状として,むなしさ,自意識過剰,焦燥感,偶然に身を任すこと,希望の喪失,時間的展望の拡散,不信感などがある。

 このような固定化した段階の系列を記述する発達段階説は,何歳ごろどのような特徴が見られるのかを大づかみに理解するにはわかりやすい。しかし,性格の連続性や安定性などの議論から批判がなされ,発達における臨界期critical periodsというよりもむしろ敏感期sensitive periodsという概念が提案されている(Bornstein,M.H.,1987など)。この敏感期という考え方は,大きな感受性susceptibilityの時期が先行し,それに続いてやや低い敏感性sensitivityの時期があって,漸進的な移行gradual transitionsが生じるというものである。

 マクアダムスMcAdams,D.P.とアドラーAdler,J.M.(2006)は,「パーソナリティはどのように発達するか」という論文で,生涯発達の中で四つの発達的な転機milestonesがあると指摘した。第1の転機は,1歳終わりころの養育者-乳児間の愛着caregiver-infant attachmentの形成から2歳終わりころの自己の基礎的感覚a basic sense of selfの出現までの時期である。第2の転機は,児童期後半から初期青年期への難しい移行の時期であり,おおよそ8歳から13歳の時期である。第3の転機は,17歳ころから20歳代半ばまでの時期で,アーネットArnett,J.J.(2004)が主張する新たに出現する成人期emerging adulthoodである。第4の転機は,拡張から縮小に向かう中年期の転換点midlife tipping pointsであり,ほぼ40歳ころである。性格発達を考えるうえで時期は重要であり,こうした四つの転機を考慮することも必要であると思われる。 →家庭環境 →性格心理学 →生物・進化論 →仲間関係 →発達段階
〔二宮 克美〕

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