認知発達(読み)にんちはったつ(英語表記)cognitive development

  • 認知発達 cognitive development

世界大百科事典 第2版の解説

発達とは人間の知識や知覚,記憶,学習などの認知機構の起源とその変遷を探る領域であり,人間の知を探ることを大目標とする認知科学の中で,非常に重要で,中核的であると言ってもよい研究分野である。認知発達という領域の確立に最大の貢献をした個人はなんといってもピアジェである。ピアジェは〈認識や知能の起源は何か〉という発生認識学的興味から認知発達の研究を始め,乳児期から青年,成人期に至るまでの知能の発達的変化のメカニズムに関しての壮大な理論を打ち立てた。

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最新 心理学事典の解説

認知の発達では,何がいかに発達するか,そのメカニズムは何かが問題となる。ピアジェPiaget,J.によると,認知発達においては行為の下書きであるシェムschème(シェマ)や表象上の行為で可逆的性質をもつ操作operationという操作的側面が自立的に発達し,知覚,イメージ,記憶などの形象的側面がその影響を受けて発達するという。同化と調節という認知の機能は不変であり,発達段階の特徴は領域一般的な論理構造で説明できるとする。操作期operational periodは,乳児期のシェムの構造で特徴づけられる0~2歳の感覚運動期sensorimotor period,幼児期の自己中心的,論理より知覚に基づく判断が優位な2~7歳の前操作期pre-operational period,児童期の具体的事象に論理的思考を適用できる7歳から11~2歳の具体的操作期concrete operational period,青年期の組み合わせ思考や仮説演繹的思考,生起していないことや抽象的なことに論理を適用できる11~2歳から14~5歳の形式的操作期formal operational periodの4段階を経て,均衡化のメカニズムにより,遺伝と環境の相互作用のもと発達するとされる。しかし,ピアジェの考えに対する批判として,発達段階の根拠,認知の領域固有性,認知の文化・社会的文脈の規定性の軽視が指摘されている。

 乳児は,感覚器官が機能し,パターン認知,対象物の同定,恒常性,運動知覚,模倣など感覚器官による外界の認知が可能で,視覚,聴覚,味覚,触覚などは生後すぐに機能している。視覚と聴覚,視覚と触覚などの感覚間協応が見られるが,表象はまだ十分発達していない。再認記憶や手がかり再生記憶は早くから見られる。乳児は作動記憶の容量や知識,推理などおとなと比べて情報処理能力に制限があるが,早期に種々の認知的達成をなすという有能性が知られている。これは,制約とモジュールの組み合わせにより刺激を適切に処理するしくみが備わっているからとされる。制約constraintとは,特定の認知領域の概念や事実と関係したデータに注意を向けさせ,環境の考えられる解釈の幅を狭めることができる機能を果たす。モジュールmoduleとは,解決すべき問題にかかわる情報に刺激されたときにのみ働き,反応できる情報を監視し,不必要な情報に反応せず,また誤った仮説をもたない機能を果たす。乳児期では制約による注意の制御とモジュールによる処理とで形成された対象物,行為,数,空間,社会的相互作用という知識が中核的役割を担うこととなる。

 幼児期では,空間,時間,物質,因果性,数,論理,素朴生物学,素朴心理学,言語という経験を構成する枠組みの発達を基に物理,生物,心などの領域の素朴理論が発達する。表象の発達,とくに言語発達が目覚ましい。幼児期では文字を読むことや高度な数学などやがて学校において教育される知識により,進化的な背景もなく祖先が経験していない新しい生態学的問題に対処するため,文化によって形成された能力と関係する周辺領域に関する知識の発達が見られる。これは,中核領域のように生得的支援のしくみがないために個人差,文化差,知識の違い,知識の獲得年齢などに大きな相違があり,個人が選択した領域に関して社会・文化の中で経験を重ね,徐徐に知識やそれを効果的に運用する技能を獲得する。幼児期は,新たに言語やカテゴリーによる推理,スクリプト,作動記憶や長期記憶,自伝的記憶,さらには記銘方略,メタ記憶能力などの領域一般的認知能力が発達し,この能力を基にさらに周りにいるおとなのガイドにより数,量,空間,心の理論など多様な知識を獲得する時期と考えられる。

 児童期は,注意がより選択的で,適応的で,計画的となり効果的に情報取得がなされる。リハーサルや体制化などの記憶方略が精緻化され,記銘,保持,検索が効果的に行なわれる。書きことば(2次的言語)が発達し,数,量,生物,物理,社会,歴史など基本的な科学的知識が取得される。具体的事柄に対して論理的に判断でき,スキーマscheme,スクリプト,カテゴリー,概念など認知の単位が形成され,カテゴリーによる推理や因果性が発達する。

 青年期においては,注意力の進歩,効果的な方略使用,知識の増大,情報処理のスピード増大,メタ認知の発達などがなされる。また,まだ起こっていない事柄について推理が可能となり,組み合わせ,仮説演繹的思考により複雑な課題の解決が可能となる。

 成人期前期では,専門的な経験から,ある事柄について領域固有な知識を取得し,熟達化してゆく。真か偽か,良いか悪いかといった2値的な考えから,相対的に真実が一つではないという多値的な考えへの変化,論理と現実の調整,理想と現実のギャップの調整ができるようになる。

 中年期は,基本的に情報処理スキルに依存する流動性知能に対して知識や経験の累積が意味をもつ結晶性知能は依然として発達する。個人差が大きくなる。記憶,推理,課題解決などにおいて反応時間が長くなるが,訓練,課題のデザインの工夫,メタ認知などにより処理スピードの減少を補うことができる。

 老年期では,個人差が目立つ。記憶においては,作動記憶の年齢による制限が課題解決や複雑な処理を困難にする。 →認知 →発生的認識論 →発達段階
〔落合 正行〕

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