改訂新版 世界大百科事典 「性論」の意味・わかりやすい解説
性論 (せいろん)
xìng lùn
心性論ともいう。人間の本性は善なのか悪なのかという問題は,中国思想史を貫く大きな論題であった。すでに戦国時代の初期において,世碩(せいせき)なるものにより人の本性は善悪の両面への可能性をもつとする説が出されたという(《論衡》本性篇)。人の本性をめぐる孟子と告子の論争はあまりにも名高い。告子が人間の生への本能的な意欲を性としたのに対し,孟子は性善説をもって応酬し,儒教の性論の基礎を築いた。その後,荀子(じゆんし)の性悪説,漢の揚雄の善悪混淆説,唐の韓愈の性三品説などが現れたが,南宋の朱熹(しゆき)(子)は,性を〈本然の性〉と〈気質の性〉に分けることによってそれらの止揚をはかった。前者は理想態としての至善の性であり,後者は悪への可能性もはらむ現実態としての性であるが,後者から前者へ復帰することが人の歩むべき道とされた。明の王守仁(陽明)は性善説に基づきながらも無善無悪説を唱え,固定的な善悪論の超克をめざした。
執筆者:三浦 国雄
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報