最新 心理学事典 「性障害」の解説
せいしょうがい
性障害
sexual disorder
性機能不全sexual dysfunctionは,性行為を行なううえでのさまざまな問題を含んでいる。1970年代にアメリカの精神医学者カプランKaplan,H.S.は,人間の性反応を欲求相(性的活動についての空想と欲求),興奮相(女性では腟潤滑化と膨張,男性では勃起),オルガズム相(快感の絶頂期で,女性では腟壁の収縮,男性では射精を伴う)の三つの相に分けることを提唱した。現在の性機能不全の分類は,この三相概念に基づき,この三相のいずれか,または複数が障害されることによって,望む性行為ができなくなっている状態である。とくに,子どもが欲しいと思っている(挙児希望のある)カップルにおいては問題が顕在化する。性機能不全の中でよく見られる障害としては,欲求相障害である性嫌悪障害,男性の興奮相障害である勃起障害,オルガズム相障害である早漏,男性のオルガズム障害(なかでも腟内射精困難),性交疼痛障害の腟けいれんなどがある。いわゆるセックスレスとよばれる状態の中には,上述のさまざまな状態が含まれていると考えられる。
性同一性障害gender identity disorderは,反対の性に対する強く持続的な同一感があり,さらに自分の性・性役割に対する持続的な不快感・不適切感をもつ状態である。身体とは逆の性同一性をもっているために,身体(乳房,ひげ,性器,声など)や性役割(スカートや化粧,自分の名前,一人称の使用など)に関して大きな苦痛を感じる。なお,性的魅力や恋愛感情を男性と女性のどちらに対して感じるか(性指向)は,性同一性障害であるかどうかには概念上関係がない。日本では,性別適合手術(性転換手術)が済んでいて,独身で未成年の子がない20歳以上の者であれば,戸籍に登録された性別の変更を行なうことができるようになった。最高裁判所によれば,2004年7月にこの特例法(性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律)が施行されてから2010年末までの6年半の間に戸籍の性別変更を許可された人数は2238名である。専門的なケアとしては,精神科領域の治療(精神的サポート,カムアウトの検討など)と,身体的治療(ホルモン療法,手術療法など)がある。治療を進めていくかどうかを決定していくためには,実際に望みの性別として社会生活を行なってみる実生活経験real life experienceが重要である。身体治療に進んで,性別を変更して生きていくことを決めた場合には,家族,友人などとの関係や,就労に困難が生じることがよくある。
パラフィリアparaphilia(性嗜好異常)は,性的興奮を覚える対象や状況が典型的ではない状態を指す。パラフィリアには露出症,フェティシズム,窃触症,小児性愛,性的マゾヒズム,性的サディズム,窃視症,服装倒錯的フェティシズムなどが含まれている。価値判断的な要素を少なくするために,著しい苦痛がある場合,社会的・職業的に機能障害を起こしている場合,または犯罪行為を実行した場合にのみ医学的な障害と考えることになっている。また,同性愛homosexualityはかつて精神障害に含まれていたが,現在では精神障害ではないとされている。
〔石丸 径一郎〕
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