日本大百科全書(ニッポニカ) 「悲情城市」の意味・わかりやすい解説
悲情城市
ひじょうじょうし
台湾映画。1989年作品。監督はホウ・シャオシェン(侯孝賢)。物語は1945年8月15日正午の玉音放送から幕を開ける。基隆(キールン)で廻船(かいせん)問屋を営む林(リン)家の主・阿禄(アルー)には4人の息子がいる。長男・文雄(ウンヨン)の妾宅(しょうたく)で玉音放送と同じ時刻に「光明(グァンミン)」と名づけられる長男が誕生する。他方、次男は日本軍に軍医として徴用されて南洋で行方不明。また通訳として徴用されて上海で消息不明だった三男の文良(ユンリョン)は復員してきたが、結局発狂してしまう。四男の文清(ウンセイ)(トニー・レオンTony Leung(梁朝偉)、1962― )は聾唖(ろうあ)だが写真館を営み、周囲の友人らが反体制ゲリラになっていくのにシンパシーを感じている。1948年2月28日、「二・二八事件」(国民党による台湾人虐殺事件)が起こり、一家に悲劇が降りかかる。文清も逮捕されて消息を断つ。太平洋戦争終結から始まる新たな台湾の歴史を一つの家族の視点からみつめた、ホウ監督の代表作。第46回ベネチア国際映画祭金獅子賞を受賞し、1980年代に勃興(ぼっこう)した台湾ニューシネマを代表する作品。ホウ監督は本作と『戯夢人生(ぎむじんせい)』(1993)、『好男好女(こうなんこうじょ)』(1995)で「台湾史三部作」を完成させた。音楽監督の立川直樹(たちかわなおき)(1949― )、音楽のS.E.N.S.(センス)(インストゥルメンタルユニット)が日本人スタッフとして参加している。
[石坂健治]