改訂新版 世界大百科事典 「意思主義表示主義」の意味・わかりやすい解説
意思主義・表示主義 (いししゅぎひょうじしゅぎ)
意思表示は,行為者がみずから欲したところにしたがって法律効果を生じさせるための根源である。この意思表示は,内心的効果意思と表示行為とで構成されているため,法律効果発生の本体はいずれかが問題になる。意思主義・表示主義は,このような問題に関しての考え方の差異である。意思主義は,個人の意思自治が効果発生の根源であるとの立場から,行為者の内心的効果意思がその本体であるとする考え方である。行為者の意思の重視,静的安全の観点に立つ考え方である。表示主義は,人は他人の表示行為をみて取引を行い,共同生活を営むのであるから,表示行為から推断される効果意思が効果発生の根源であるとの立場から,表示行為がその本体であるとする考え方である。相手方の保護,取引保護の観点,動的安全に立つ考え方である。両主義の差異は,たとえば,ブランデーを買うつもりでウィスキーを注文したときのように,内心的効果意思と表示行為が不一致の意思表示や,だまされた場合のように,その形成過程に瑕疵(かし)のある意思表示に法律効果を与えるかどうかを考えるにあたって差異が生ずる。日本の民法は,内心的効果意思が欠けた意思表示を無効(民法93~95条)とし,瑕疵ある意思表示をいちおう有効とみている(96条)ことから,意思主義の基調にあるといえるが,相手方の保護を考えて修正をしている。学説としては,表示主義を基調とする傾向に立って民法を解釈する傾向が強い。ただ最近では,人の意思を尊重し人間性を回復するために意思主義に復帰すべきだとの主張も強くなってきている。
→法律行為
執筆者:伊藤 進
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報