感染症の診断

内科学 第10版 「感染症の診断」の解説

感染症の診断(感染症総論)

 
(1)問診と身体所見
 内科学において問診は重要であり,感染症も例外ではない.発熱,発疹,疼痛,呼吸器症状,消化器症状など,患者の主訴を中心に,発症時期,程度,感染症を想定した場合に併発しやすい関連症状の有無,症状に応じて痰や便,尿の性状などを問診する.問診と身体所見を手がかりに,全身的な感染症の一症状か,特定の臓器局所を中心とした感染症なのか,確定診断のためにとっておくべき検体や画像は何かなどを考え,診断を進める.
 病原体の増殖速度や臓器分布に応じて,感染してから症状が顕在化するまでの潜伏期に一定性のある感染症が多い(表4-1-2).発熱以外に臨床的所見の少ない場合,潜伏期間が診断の手がかりとなることもあるので,重要である.感染原因を推定するためには,周囲に同様の患者がいたかどうか,原因となりそうな飲食物を摂取したか,海外渡航歴,性行動なども,必要に応じて詳しく問診すべきである.グループ海外旅行では,たとえば1人が熱帯熱マラリアと診断された場合,同行者の早期診断に結びつく場合がある.
(2)検査
a.一般検査
 ⅰ)血液検査
 一般細菌による急性感染症では,通常白血球(好中球)増加,核の左方移動がみられる.リケッチアクラミジア,ウイルスなどの感染症や真菌感染症では,通常白血球数は不変またはむしろ減少する.急性熱性細菌感染症の中で要注意なのは腸チフスである.腸チフスでは,白血球増加はまれで好酸球消失,比較的リンパ球増加が特徴的である.粟粒結核も白血球増加を伴わないことが多いが,類白血病反応(leukemoid reaction)を呈し,白血球増加症とともに骨髄芽球のような幼若白血球が末梢血に現れることがある.マラリア原虫は,赤血球に感染することから末梢血の鏡検が診断の鍵となる. 
ⅱ)炎症反応
 CRP試験は細菌感染症で鋭敏に上昇し,経過観察あるいは治療の指標として有用である.赤血球沈降速度(赤沈)は感染症で亢進することが多いが,特異的な診断価値には乏しい.感染症が重症となり,播種性血管内凝固症候群(DIC)を起こすと血漿中のフィブリノゲンが減少し,赤沈は遅くなる. 
ⅲ)尿検査
 検査に用いる尿は,正しく採尿し,検査まで管理することが重要である.尿はよい培地であり,室温でも細菌は増殖しうる.検査室に届けるまでの温度管理にも注意を払う必要がある.通常,検査室に届けるまでに時間を要する場合には冷蔵庫に保管する.強拡大(400×)で毎視野5個以上の白血球が認められれば膿尿である.細菌尿の判断は,中間尿の場合105 cfu/mL以上,カテーテル尿では104 cfu/mL以上とされるが,臨床症状がある場合,単独菌種で 103 cfu/mL以上あれば細菌尿と判断する.
b.病原体診断
ⅰ)適切な検査材料の採取
 抗菌薬が投与されていれば当然結果に影響するので,できる限り化学療法開始以前に材料を採取する必要がある.特に細菌性疾患を疑う場合,常在細菌が混入する可能性があることを考慮すべきである.血液からチフス菌やα溶血性連鎖球菌,大腸菌などが検出されれば診断的価値が高いが,皮膚の常在細菌である表皮ブドウ球菌が検出された場合には結果の解釈には注意が必要である.繰り返して検出されるか,同時に違う場所から採血して同じ菌が検出されるかなど,確認する必要がある.
 腸チフスのように,経過とともに陽性となる材料が変化する疾患も要注意である.Salmonella Typhi (およびS. Paratyphi A)は,病初期1週間程度血液から分離されやすい.糞便からの分離頻度は2~3週間目にピークとなる.検査材料の保管に注意を払うことも重要で,ナイセリア属菌(髄液中の髄膜炎菌,尿道分泌物中のリン菌など)は温度変化に弱く,冷蔵庫に材料を保管すると死滅する恐れがある.赤痢アメーバは採便後直ちに鏡検すれば,赤血球を貪食して動き回る栄養型のアメーバが観察できる. 疫学的に非常にまれな病原体が検出された場合も要注意である.2001年米国で炭疽菌によるバイオテロ事件が起こった.その際,血液から炭疽菌が培養されたことの異常性に気づいた医師の通報が,テロ対策の発端となった. 
ⅱ)病原体検査法の進歩
 検査室において,ウイルス,リケッチア,クラミジアなどを培養するのは困難で,診断は血清学的検査によることが多かった.PCR法などの核酸検出法や抗原検出法など,検査手段が進歩し,直接的な病原体診断が可能となった.また,HIV,HBV,HCVなどのウイルス感染症においては,血漿中のウイルス量の測定が可能となり,治療の効果判定や経過のモニタリングに使用されている.
c.血清学的検査
 古典的な血清学的検査には,腸チフスおよびパラチフスに対するWidal反応(チフス菌などと患者血清による凝集反応)や,リケッチア疾患に対するWeil-Felix反応(リケッチアとプロテウス菌の抗原類似性を用いた凝集反応)がある.梅毒トレポネーマの培養は今でも困難であるため,カルジオリピンやトレポネーマの抗原を用いた血清反応が用いられており,前者は病気の活動性判定に,後者は既往の有無判定に用いられている.現在でも,血清学的検査はHIVやHCVなどウイルス疾患のスクリーニング検査や,病初期と回復期のペア血清による急性ウイルス感染症の診断(回復期血清での抗体価の4倍以上の上昇)に用いられることがある.[岩本愛𠮷]

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

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