フィブリノゲン(読み)ふぃぶりのげん(その他表記)fibrinogen

翻訳|fibrinogen

デジタル大辞泉 「フィブリノゲン」の意味・読み・例文・類語

フィブリノゲン(fibrinogen)

《「フィブリノーゲン」とも》血漿けっしょう中のたんぱく質の一。主に肝臓でつくられる。血液凝固の第一因子で、トロンビンによって限定的な分解を受け、フィブリンとなる。線維素原

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「フィブリノゲン」の意味・わかりやすい解説

フィブリノゲン
ふぃぶりのげん
fibrinogen

血液凝固系の第Ⅰ因子。血漿タンパク質(けっしょうたんぱくしつ)の一つで、繊維素原(線維素原)ともいう。脊椎(せきつい)動物の血液凝固において中心的役割を果たしている。血中に約80%、血管外腔(がいくう)に約20%分布する。おもに肝臓でつくられ、ヒト血漿1リットル中に2~6グラム含まれる。妊娠、炎症、感染性疾患などで増加し、赤血球沈降速度(血沈)も上昇する。分子量は約34万で、そのうちの1万は糖鎖(グルコースなどの糖がいくつかつながったもの。糖鎖のついているタンパク質を糖タンパク質という)が占めるが、Bβ(ベータ)鎖とγ(ガンマ)鎖のみにあり、Aα(アルファ)鎖にはない。3種のポリペプチド鎖2本ずつからなり、フィブリノゲン1分子は(Aα・Bβ・γ)2で表される。N末端のアミノ酸はAα鎖がアラニン、Bβ鎖はピロリドンカルボン酸、γ鎖はチロシンである。分子量はそれぞれ約6万5000、約5万5000、約4万7000で、全体で約33万4000である。分子の大きさは直径9ナノメートル(1ナノメートルは10億分の1メートル)、長さ45~46ナノメートルで、両端と中央部に節のある棒状を呈する。

 血管壁が傷つけられると血小板からトロンボキナーゼ(凝固因子Ⅹa)が遊離し、プロトロンビンをトロンビンへと活性化する。プロテアーゼの一種であるトロンビンによってフィブリノゲンはアルギニンArg16-グリシンGly17の部位で限定的な分解を受け、フィブリノペプチドAおよびBを遊離してフィブリンモノマー(αβγ)2となる。ヒトのβ鎖はアミノ酸461残基で分子量5万2230、メチオニンを15残基含む。モノマー(単量体)は会合してポリマー(重合体)となり、さらにⅩⅢa因子であるトランスグルタミナーゼによって、γ鎖間にイソペプチド結合の架橋が施される。これにより、じょうぶな三次元の網目構造ができ、難溶性となり、血液凝固が完了する。

 なお、フィブリノゲンは1686年マルピーギにより発見され、1847年ウィルヒョウによって命名された。1879年スウェーデンの化学者ハマーステンOlof Hammarsten(1841―1932)が高純度のものを調製し、1979年に、イギリスのドゥーリトルRussell F. Doolittle(1931― )らがヒト‐フィブリノゲンのα鎖のアミノ酸配列を決定した。さらに2001年、ようやくニワトリ‐フィブリノゲンの三次元構造が解像度2.7オングストローム(Å)で明らかになった。この時点では、全部が確定しているわけではないが、ヒト、ウシ、ニワトリ、ウナギの4種間で構造の違いはわずかであることが明らかになった。

[野村晃司]

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四訂版 病院で受ける検査がわかる本 「フィブリノゲン」の解説

フィブリノゲン

基準値

200~400mg/dℓ

フィブリノゲンとは

 血液凝固因子のひとつ(第Ⅰ因子)で、血液凝固のメカニズムの最終段階でフィブリンという水に溶けない網状の線維素となり、血液を固める働きをする。


フィブリノゲンが低下すると血液が固まりにくくなる

フィブリノゲンは血液凝固の第Ⅰ因子で、急性相反応物質です。低値になると出血しやすくなり、高値になると血栓ができやすくなります。

出血傾向、DIC、肝機能障害で低値に

 フィブリノゲン(血液凝固第Ⅰ因子→参照)も、血液の凝固の異常を調べる検査です。

 フィブリノゲンは、血液凝固の最終段階で網状の不溶性物質フィブリンとなり、血球や血小板が集まってできた塊(血栓)のすき間を埋めて、血液成分がそこから漏れ出ないようにしています。このため、フィブリノゲンが低下すると血液が固まりにくくなり、止血されにくくなります(出血傾向)。

 例えば、全身のいたるところで血液が凝固する病気として、播種はしゅ性血管内凝固症候群(DIC)があります。これは、悪性腫瘍や重症細菌感染症、白血病などから、二次的に発症する病態です。全身で血液凝固がおこるため、凝固因子が消耗してフィブリノゲンも低下し、出血傾向が出現してきます。

 フィブリノゲンはまた、肝機能検査としても用いられます。これは、フィブリノゲンが肝臓で合成されるためで、肝硬変や肝臓がんで肝臓の合成能力が低下すると、低値になります。

血栓症、感染症、急性心筋梗塞で高値に

 この検査は、感染症や急性心筋梗塞こうそくなどの疑いがあるときにも行います。フィブリノゲンは、体内に炎症や組織の変性が生じると、5~6時間後に血液中に増加し、高値となるからです。

 血液凝固因子であるフィブリノゲンが何らかの原因で増加すると、体のいろいろなところで血栓ができやすくなります。

検査法による誤差もある

 検査は、フィブリノゲンをフィブリンとして重さを測定する方法と、トロンビンを加えてフィブリノゲンがフィブリンとなる時間を測定するトロンビン法とが用いられています。

 前者は、採血に難渋した検体や古い検体では偽低値になることがあります。後者では、フィブリノゲンに分子異常があると、トロンビン時間が延長して偽低値になります。

症状が落ち着いたら再検査

 フィブリノゲンは、急性の炎症や組織の破壊があるときに、血液中に出現する物質(急性相反応そうはんのう物質という)であるため、症状の落ち着いた時期に再検査する必要があります。また、100mg/dℓ以下の場合は低フィブリノゲン血症として注意し、50mg/dℓ以下では出血する危険があります。

播種性血管内凝固症候群

・紫斑

・下血

・注射部位の止血困難

・乏尿

・ショック

 

悪性腫瘍、重症細菌感染症、白血病、膠原病など

疑われるおもな病気などは

◆高値→妊娠、感染症、急性心筋梗塞など

◆低値→肝機能障害(肝硬変、肝臓がん)、播種性血管内凝固症候群(DIC)、脳梗塞、急性心筋梗塞後、無(低)フィブリノゲン血症など

医師が使う一般用語
「フィブリノゲン」あるいは「フィブリノーゲン」

出典 法研「四訂版 病院で受ける検査がわかる本」四訂版 病院で受ける検査がわかる本について 情報

知恵蔵 「フィブリノゲン」の解説

フィブリノゲン

血液凝固因子。肝臓で作られるたんぱく質で、糊状になって血液を固まらせて出血を止める。産婦人科や外科で使われた製剤は、薬害エイズを起こした血液製剤同様、1964年から87年まで、原料は輸入血液で非加熱だった。87年、青森県の肝炎集団発生でメーカーミドリ十字(当時)は回収、厚生省(当時)に報告したが、2001年に厚生労働省は再調査を指示。02年3月、ミドリ十字の併合会社三菱ウェルファーマ(旧ミドリ十字)は、患者約28万人のうち1万600人がC型肝炎(ウイルス肝炎)に感染したと報告した。患者は各地で国と製薬企業を相手に「薬害C型肝炎訴訟」を提起、2006年6月、大阪地裁は13人中9人の訴えを認める初めての判決を出した。

(田辺功 朝日新聞記者 / 2007年)

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