感染症・寄生虫疾患における新しい展開

内科学 第10版 の解説

【コラム】感染症・寄生虫疾患における新しい展開

 近年発生した中で最もインパクトの大きかった感染症は,2009年のH1N1亜型のパンデミックインフルエンザであった.国の法整備として,2012年5月11日に「新型インフルエンザ等対策特別措置法」(特措法)が公布され,2013年2月7日に「新型インフルエンザ等対策有識者会議」の「中間まとめ」が公表された.この法律における「新型インフルエンザ等」とは,感染症に関する基本法である「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」(感染症法)に規定されている「新型インフルエンザ等感染症」および「新感染症」である(特措法第2条第1項).感染症法においては,「新型インフルエンザ等感染症」は,「新型インフルエンザ」と「再興型インフルエンザ」(感染症法第6条第7項),「新感染症」は「人から人に伝染すると認められる疾病であって,既に知られている感染性の疾病とその病状又は治療の結果が明らかに異なるもので,当該疾病にかかった場合の病状の程度が重篤であり,かつ,当該疾病のまん延により国民生命及び健康に重大な影響を与えるおそれがあると認められるもの」(感染症法第6条第9項),と定義されている.あとから振り返れば,2009年にパンデミックを起こしたH1N1亜型のインフルエンザウイルスは比較的病原性が低く,ウイルス学的にも「新型インフルエンザウイルス」ではなかった,ということになった.今後は,特措法の内容を周知するとともに,施行された場合の社会や医療界の混乱をいかに最小限にとどめるか,という面での議論が必要となる. 2006年にワクチンの2回定期接種(1歳,小学校入学前1年間)が始まって以降,麻疹は激減し,その傾向が続いている.日本は「麻疹輸出国」といわれ続けていたが,最近の遺伝子解析では,ヨーロッパや東南アジアで流行する麻疹ウイルスが,国内でも分離されている.一方,風疹は,20~30歳代の男性例が多いが,流行に歯止めがかかっていない現状である.2011年に四価のヒトパピローマウイルスワクチンの製造販売が承認されるなど,新規ワクチンの話題もある中で,予防接種法の改正に向けた準備が進んでいる.承認されたワクチンがあるにもかかわらず,抗体保有率の改善していない例(HBV,HAVなど)もある.ワクチンで予防可能な疾患に対する啓蒙がさらに求められている. 新規抗菌薬開発は依然として低調である.抗菌薬の多用される病院内はもとより,市中においても多剤耐性菌の増加が懸念されている中,多職種参加型のチームによる取り組みや地域連携などがますます重要になっている.赤痢アメーバランブル鞭毛虫などに対するメトロニダゾールの追加適応承認や世界的な抗マラリア薬であるアトバコン・プログアニル塩酸塩の新規承認など,数は多くないが抗原虫薬の新しい展開もある.[岩本愛𠮷]

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

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