改訂新版 世界大百科事典 「戦争映画」の意味・わかりやすい解説
戦争映画 (せんそうえいが)
war film
戦場,戦闘を描いた映画,戦争をドラマの背景にして銃後の生活を描いた映画,侵略者に対する抵抗を描いた映画(レジスタンス映画),戦争のつめあとが残っている戦後の社会を描いた映画等々の総称。きわめて多義的なジャンルといえるが,《ナバロンの要塞》(1961),《大脱走》(1963)といった単純なアクション映画の一種としての戦争映画を別にすれば,文化の歴史としての世界映画史を論ずる場合に映画と戦争との深いかかわり,すなわちどんな戦争映画があったか,それらがどんな政治・経済的あるいは社会的背景のもとでつくられ,どんな〈思想〉を主張したかを論ずることは重要な課題の一つになっている。サイレント映画の初期からすでに戦争を描いた映画はつくられていたが,いわゆる〈戦争映画〉が映画史を大きく彩るのは二度にわたる世界大戦をへてからで,以後,朝鮮戦争,ベトナム戦争,中東戦争などをへて現在に至るまで,資本主義国でも社会主義国でも,戦争あるいは侵略主義を正当化して戦意高揚を意図した戦争映画が,スペクタクルからメロドラマに至るまでいろいろな形でつくられてきており,たとえば《グリーンベレー》(1968)がアメリカ本国でも酷評されたように,戦争の真実を描いたと称する好戦的映画の多くは人類の平和という原点から批判され,逆に反戦映画が真の戦争映画として評価を受けることになる。したがって,戦争映画の古典や名作とされている作品は,トマス・H.インス(1882-1924)監督の《シヴィリゼーション》(1916)やチャップリンの《担え銃》(1918)から,キング・ビダー監督《ビッグ・パレード》(1927),ルイス・マイルストン監督《西部戦線異状なし》(1930),G.W.パプスト監督《西部戦線一九一八年》(1930),ジャン・ルノアール監督《大いなる幻影》(1937),田坂具隆監督《五人の斥候兵》(1938),《チャップリンの独裁者》(1940),木下恵介監督《陸軍》(1944),ロベルト・ロッセリーニ監督《戦火のかなた》(1946),ソ連の〈雪どけ〉の映画として知られるミハイル・カラトーゾフ監督《戦争と貞操》(1957),スタンリー・キューブリック監督《突撃》(1957),デビッド・リーン監督《戦場にかける橋》(1957),アンドレイ・タルコフスキー監督《僕の村は戦場だった》(1962),ジッロ・ポンテコルボ監督《アルジェの戦い》(1967),ドルトン・トランボ監督《ジョニーは戦場に行った》(1971)等々に至るまで,人道主義的戦争批判の道にそって反戦平和を訴える点で共通しており,まさにその意味で〈戦争映画〉として正当な評価を受けているといえよう。
執筆者:柏倉 昌美
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報