板,紙,絹などに書画をかき,門戸,室内などにかける横に長い額面で,枠つきの平面に表具する。中国では古来,大きな建築物にその楼閣の名称を木などに彫り額として掲げたり,また建築の中で室名を示すために掲げたりしている。風雅な文字や吉語を書くところから一般の鑑賞の表具形式として使われるようになり,絵画作品にも応用されるようになった。唐の李徳裕が玄宗皇帝の遺事を記した《程史》には〈……有富民。捐貲為扁額。金碧甚侈〉と,早くも扁額の字句が見え,宋の胡継宗撰《書言故事・拾遺類》には〈牌榜。曰扁額〉と説明されている。日本では中国における扁額形式がそのまま踏襲され,書画の揮毫,鑑賞用に盛んに用いられているが,扁額流行の裏には別に神事にかかわる要因がある。それは,日本には古くから神社,仏閣に対し,絵馬や額を奉献する習慣があるからである。絵馬は多く馬図を描き,祈願者の氏名,性別,年齢,祈願目的などを記入し納める。一方,神仏の威徳をたたえたり,事業成就の奉謝のために,豪華な額を献ずることが行われた。また,和算の難問を掲示する算額,法楽のために数多くの俳諧,和歌を書きつらねた額も献ぜられるようになった。いずれも絵馬から発生した同類の所業と思われる。扁額は和室の鴨居(かもい)の上に掲げる表装形式としても広く愛好されるにいたった。
執筆者:角井 博
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