打聞集(読み)ウチギキシュウ

デジタル大辞泉 「打聞集」の意味・読み・例文・類語

うちぎきしゅう〔うちぎきシフ〕【打聞集】

平安末期の仏教説話集下巻だけ、長承3年(1134)の写本現存する。作者未詳。漢字片仮名交じりの文体で書かれ、インド中国日本説話27編を収録

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精選版 日本国語大辞典 「打聞集」の意味・読み・例文・類語

うちぎきしゅう‥シフ【打聞集】

  1. 平安末期の仏教説話集。下帖一巻だけが残る。編著者未詳。長承三年(一一三四)頃の成立。インド、中国、日本の霊験説話など二七編を収める。「今昔物語集」「宇治拾遺物語」と内容の重複が目立つ。漢字片かなまじり文。かなを漢字の間に小さく書く。説経の素材の覚え書きかという。

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改訂新版 世界大百科事典 「打聞集」の意味・わかりやすい解説

打聞集 (うちぎきしゅう)

平安末期の仏教説話集。大正末年,滋賀県の金剛輪寺で発見,紹介された。1巻。表紙に〈打聞集下帖〉とあり,上巻あるいは上・中巻が失われている。編者および成立年時は未詳であるが,表紙に〈長承三年甲寅〉〈桑門栄源〉の記載がある。本文と同筆で,本文に誤写や訂正が見られることから,1134年(長承3)に栄源が祖本を書写したもので,原本はこのときからそれほどへだたらないころに成立したものと考えられる。目録に記された27話のほか,《大鏡》《大和物語》からの抄出,および覚書らしい断片的記事とからなる。内容はインド・中国および日本における仏教説話である。仏法の流伝,神仏・僧侶の霊験,寺院の縁起などであるが,高名な祖師・高僧を主人公とする話が大半で,この作品に前後してあいついで成立した往生伝の世界とは異質のものとなっている。《今昔物語集》と共通するもの21話,《宇治拾遺物語》と共通するもの9話をもつが,直接の伝承関係ではなく,共通の素材によったものと考えられる。文体は漢字かたかなまじり文で《今昔物語集》に近似する。話しことばのままの文章と,話の要点のみのメモとが混在するが,ともに説経のための覚書であることを示す。伝承を受身に書きとどめた私的な記録という性格が強く,書きことばによる独自の説話の世界を創造するには至っていない。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「打聞集」の意味・わかりやすい解説

打聞集
うちぎきしゅう

平安後期の仏教説話集。下巻のみ残存の孤本。主として、仏法の霊験(れいげん)と仏教史上著名な僧の行跡を語る説話27条を収録する。これに、天台僧たちに関する簡略な伝記的記事、『大鏡』および『大鏡裏書』からの抄出を付載する。1134年(長承3)ころ天台宗寺院で成立か。表紙の署名「栄源」が編者か。ほとんどの説話が『今昔(こんじゃく)物語集』『梅沢本古本説話集』『宇治拾遺(うじしゅうい)物語』と共通し、それらの祖となった説話集、おそらく散逸した『宇治大納言(だいなごん)物語』からの引用であろう。説法などのための備忘録として編まれたとみられ、表現は簡略であるが、説話の利用方法の実態を示すものとして意義をもつ。特異な漢字表記を含む片仮名交じり文で、日本語資料としても有用である。

[森 正人]

『中島悦次著『打聞集』(1961・白帝社)』『打聞集を読む会編『打聞集 研究と本文』(1971・笠間書院)』

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百科事典マイペディア 「打聞集」の意味・わかりやすい解説

打聞集【うちぎきしゅう】

平安後期の仏教説話集。現存するのは下帖1巻のみで,天台宗の僧栄源による転写本。インド・中国・日本を舞台とする説話を27話収めており,《今昔物語集》《宇治拾遺物語》などと共通する説話が多い。話の長さは様々で,わずか1行程度のメモのような記事もあり,説法のための覚書きとして記されたものとも考えられる。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「打聞集」の意味・わかりやすい解説

打聞集
うちぎきしゅう

平安時代後期の仏教説話集。長承3 (1134) 年に僧栄源が書写した下巻のみが現存。成立は少し前で,僧の講説を打聞くままに筆録したものとされる。内容はインド,中国,日本の仏教に関する説話 27条から成るが,そのうち『今昔物語集』にある話が 21話に及ぶほか,『宇治拾遺物語』と9話が一致するなど,当時の有名な話を集めている。仏道初心者に対する説経の材料として編纂されたものと思われる。

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