〘他ワ五(ハ四)〙
① 地上などにある物を、取り上げる。落ちている物や捨ててある物などを取り上げて手にする。
※
万葉(8C後)一四・三四〇〇「信濃なる千曲の河の細石
(さざれし)も君し踏みてば玉と比呂波
(ヒロハ)む」
※
日葡辞書(1603‐04)「タキギヲ firô
(ヒロウ)」
② 他人の落とした物を取り上げて自分の物とする。落ちている物を取って、自分の物として用いる。納める。
※書紀(720)仁徳七年九月(前田本訓)「今
黔首(おほむたから)、富み饒
(ゆたか)にして遺
(おちもの)拾
(ヒロハ)ず」
※小川本願経四分律平安初期点(810頃)「弊故の衣を拾
(ヒロヒ)て、
僧伽梨に作りて畜せり」
③ 多くの物の中から選び取る。必要なものだけを選び出して利用する。
※大慈恩寺三蔵法師伝院政期点(1080‐1110頃)一「長安に到りし自り、又、随ひて詢採(ヒロフ)(〈別訓〉さいす)」
※
何処へ(1908)〈
正宗白鳥〉九「自分の分だけを拾って読んだ」
④ 没収する。
※鵤荘引付‐永正三年(1506)正月一六日「得人 内山方と申し合せ、彼が家を符し資具を拾ひ、在所之百性并玉田方によみ預け了」
⑤ 失うはずのものを、失わないですむ。「命をひろう」
※
咄本・
聞上手(1773)
親分「医者殿へゆきて『此たびはおかげでむす子めを一人ひろいました』」
⑥ (歩くとき、ぬかるみなどのない歩きよい所を選ぶ意から。自動詞的に用いることもある) 乗り物を用いずに徒歩で移動する。「歩く」の丁寧な言い方。
※歌舞伎・参会名護屋(1697)二「是よりはちと徒歩
(かち)を拾ふ
べい」
※ありのすさび(1895)〈後藤宙外〉三「静かに
花壇の前をひろひ」
⑦ 「する」「言う」の意で、動作主を侮っていう語。
※洒落本・一事千金(1778)三「げび斗りひろいますげな」
⑧ 年を一つ一つ積み重ねる。また、もれなく一つ一つの駅にとまる。
※滑稽本・古朽木(1780)一「年拾ふに随て威(おどし)はきかず」
※滑稽本・浮世風呂(1809‐13)前「イヤモ呑太夫が所を拾(ヒロッ)てくれた」
⑩ 出かける途中で人をさそう。
※
寝顔(1933)〈
川端康成〉「誰かに会ったら、拾っていっしょに行かう」
⑪ タクシーを、乗るためにつかまえる。
※物質の弾道(1929)〈岡田三郎〉「
タキシーを拾
(ヒロ)ふから」
※花鏡(1424)音習道之事「惣じて、音曲をば、いろは読みには謡はぬ也。真名の文字の内をひろいて、てにはの字にて詰め開きて謡ふべし」
⑬
雅楽の用語。調子の中にある笙の奏法の一つ。
鉦鼓の
一連の奏法をいう。
※
教訓抄(1233)一〇「
鞨鼓に阿令声を打て生をば早く拾
(ヒロイ)てうちとどむるなり」
※病牀譫語(1899)〈正岡子規〉四「漢字は字数多くして活字を拾ふ事等に不便なり」
⑮ 文字を一つ一つぽつりぽつりと読む。
※黒い眼と茶色の目(1914)〈
徳富蘆花〉七「少し字を知ると、仮名を拾って昔話草紙ものを読んだ」
⑯ 音を感じて取り入れる。
※吉里吉里人(1981)〈井上ひさし〉三「官房長官の法務大臣に話しかけている声をマイクが拾っている」