振動子強度(読み)シンドウシキョウド

化学辞典 第2版 「振動子強度」の解説

振動子強度
シンドウシキョウド
oscillator strength

原子分子が光(振動電磁場)と相互作用する場合に,系内の電子が調和振動子としてはたらいていると仮定して論じるときの振動子の数.質量m,電荷e振動数 ωs の振動子 fs 個が,それぞれ独立に弱い電場に応答するとみなすと,振動数ωの電場によって誘起される分極率α(ω)は,

と書ける.ここで,gs は振動子にはたらく減衰力を表すパラメーターである.これはつねに小さいとして取り扱ってよい.量子論的には,ωs基底状態から測った励起エネルギー Es

Es = ℏωs
という関係にあり,fs は,

である.この式は,量子論的に求められたα(ω)を前式と比較することによって得られる.ここで,xj は電子jの座標成分,〈s| |0〉は基底状態と励起状態sとの間の行列要素である.双極子行列要素を原子単位で測り,リュードベリ定数Rを用いると,この式は,

と簡単化される.ここで,

Rme4/22 = 13.606 eV

Ms2/ao2,(ao2/me 2)

である.なお,fs は無次元であって,原子や分子がZ個の電子からなるとき,総和則

Σ fsZ
が成り立つ.sが連続状態のときには,fs のかわりに

を用いる.ここで,dM 2/dEは双極子行列要素平方の密度であり,df/dEを微分振動子強度あるいは振動子強度分布という.これを用いると総和則は,

となる.振動数ωの光の吸収断面積をσとすると,

となる.ここで,

α = e 2/ℏc
である.

出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報

改訂新版 世界大百科事典 「振動子強度」の意味・わかりやすい解説

振動子強度 (しんどうしきょうど)
oscillator strength

f値ともいう。分光学でスペクトルの解析に用いられる量で,原子を古典的な調和振動子とみなして光の吸収,放出分散を論ずるとき,特定の振動数をもった振動子の個数に対応する数。原子による可視光付近の光の吸収は,主として原子内電子と光の電場による双極子相互作用に起因し,原子の基底状態1(エネルギーE1波動関数Ψ1)から種々の励起状態iEiΨi)への光による遷移によって決まる。電子の質量をm,プランク定数をhとすると,状態1,i間の振動子強度f1iは無次元の量,

で与えられる。ここで最後の因子は,原子内電子の位置ベクトルの和の行列要素である(準位に縮退があるときは,通常,さらに状態について和をとって準位間の振動子強度という)。振動子強度に対しては,トマス=クーンの総和則,

 Σf1iZ(=原子内電子の総数

が成り立つ。この結果,光学吸収に関しては,Z個の電子がf1i個ずつの組に分割され,そのおのおのは,電子と同じ質量と電荷および原子準位間のエネルギーに相当する共鳴振動数(EiE1)/hをもつf1i個の調和振動子の集団に同等であると解される。振動子強度の名称はこの事実に由来する。fに対する上記の式を拡張して任意の1対の準位間の振動子強度fjiを定義することができる。この場合fjiは下方遷移に対し負になるが,総和則Zはすべてのjについて成り立つ。原子以外にイオン,分子,固体などについても振動子強度の概念を拡張することができ,物質誘電率,分極率,電気伝導率理論に使われる。
執筆者:

出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

今日のキーワード

カイロス

宇宙事業会社スペースワンが開発した小型ロケット。固体燃料の3段式で、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が開発を進めるイプシロンSよりもさらに小さい。スペースワンは契約から打ち上げまでの期間で世界最短を...

カイロスの用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android