日本大百科全書(ニッポニカ) 「擬制的親子関係」の意味・わかりやすい解説
擬制的親子関係
ぎせいてきおやこかんけい
実の親子ではない者が、互いに合意のうえで実の親子であるかのような一定の役割関係をもつこと。しかし、これには養子縁組は含めない。このような関係は、国内外ともに古くから多くの形態と機能をもっている。外国の場合、カトリック社会におけるゴッドファーザー(代父)・ゴッドマザー(代母)と洗礼を受ける子供の関係が知られている。長崎県五島(ごとう)のカトリック社会では、この関係をダキオヤ・ダキゴとよんでいる。やくざの世界における親分・子分関係も一定の儀式を経て結ばれ、厳格な権利・義務関係を伴うが、一般庶民の間にも制度的な親方・子方関係があり、両者の間には、義理と人情を伴った庇護(ひご)・奉仕の双務的関係がある。
[丸山孝一]
仮親
擬制的親子関係において、子からみた親を仮親とよぶことがある。仮親は、出生時における取上げ親、乳(ち)付け親、名付け親などと、成年時の烏帽子(えぼし)親、兵児(へこ)親、鉄漿(かね)親、筆(ふで)親などに二分される。前者は子供の健やかな心身の成長を願う呪術(じゅじゅつ)的意味をもち、神官や僧侶(そうりょ)に仮親になってもらうこともある。後者の場合はむしろ子の社会的進出に援助を期待して、有力者に仮親になってもらう。いずれの場合にも仮親の承諾を要するのはもちろんであるが、「親方どり」ということばに表れているように、子またはその実父によって仮親が選ばれる点が注目される。その背景には、仮親として依頼されることを名誉とする考え方がある一方で、子やその実父側では、仮親との間に一定の互酬的・双務的役割関係をもとうとする事情がある。仮親と実父との関係は、出生時の親子成りの場合、やや水平的な相互扶助関係がみられ、成年時の場合、より垂直的庇護・奉仕関係がみられるようである。仮親を契約親ということもあるが、無限定的な恩義感情や儀礼を伴うので、単なる契約ではない。そこに、親子という先天的血縁関係になぞらえなければならない理由があるといえる。
[丸山孝一]
『『親分子分』(『有賀喜左衞門著作集 第9巻』所収・1963・未来社)』▽『服部治則著『親分子分と本分家――山梨県における村落同族分析』(1978・御茶の水書房)』