知恵蔵 「改正労基法」の解説
改正労基法
1947年に制定された労基法は、雇用情勢の変化などに伴い何度かの改正が行われている。85年には男女雇用機会均等法の制定に伴う改正が行われ、87年には裁量労働制やフレックスタイム制などを導入、93年には週40時間労働制が原則化された。裁量労働制は98年に企画業務型も適用対象となり、その対象事業場は2003年に本社以外にも拡大された。08年の改正では月60時間を超える時間外労働の法定割増賃金が25%から50%以上に引き上げられ、年次有給休暇の時間単位での取得が認められた。15年には長時間労働の抑制や高度プロフェッショナル(高プロ)制度などを盛り込んだ改正案が閣議決定されたが、国会提出後も審議されないまま17年に廃案となっている。これを引き継ぐものとして、労基法を始め労働安全衛生法、雇用対策法、労働契約法など8本の労働法を一括して改正する「働き方改革関連法(働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律)」が18年に国会に上程され可決成立した。これにより、改正労基法が施行されることになった。ただし、中小企業や特定の業種については一定の猶予期間が設けられている。
「働き方改革関連法」は「一億総活躍社会の実現に向けて」と題し、働く者がそれぞれの実情に応じた多様な働き方を選択できる社会を実現するためと称して行われた労働関連法制の整備である。その中で、長時間労働の是正、多様で柔軟な働き方の実現、雇用形態にかかわらない公正な待遇の確保などを目指すとする。その背景として、日本の少子高齢化による労働人口の減少や慢性化する長時間労働の問題、低迷する労働生産性などが挙げられる。柔軟な労働力確保と生産性向上は産業界の要請であることから、同一労働同一賃金(改正労働契約法など)を掲げて労働市場を広げ、自由な時間で働く高度プロフェッショナル制度の創設などで業務効率の向上をもくろむ。また、本来は時間外・休日労働を適正化するはずの労使による36(さぶろく)協定が、事実上は労働時間を際限なく伸ばし時間外労働を合法化する免罪符と化しているという批判があった。これに対して、労基法による時間外労働の上限規制を定め、過労死が多発するほどに深刻化している慢性的な長時間労働の抑制を図った。また、法に定められているにもかかわらず取得が進まない年次有給休暇については、これを取得させることを企業に義務付けた。ただし、一部野党は労働時間の上限規制は労災認定の基準となる「過労死ライン」とほぼ同じにとどまるに過ぎず、専門職などを労働時間規制の対象から除外する高プロ制度は残業代ゼロ制度であるとして法案に反対していた。
(金谷俊秀 ライター/2019年)
出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報