パートタイム・有期雇用労働法などに盛り込まれている考え方。仕事内容が同じで能力や成果が同等なら、賃金や福利厚生といった待遇も同水準にする必要がある。仕事の内容や責任が違う場合は、待遇もその差に応じて扱う。企業は労働者から要求された場合に待遇差の理由を説明する義務を負うが、罰則規定はない。基本給や賞与、各種手当のほか、食堂や休憩室の利用といった福利厚生も対象となる。
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同質・同量の労働に対して年齢、学歴、性別、人種、民族などの差異にかかわりなく同一額の賃金支払いを求める原則。歴史的には、産業革命による機械制大工業への移行に伴う女性・児童労働の増大のもとで生じた、とりわけ女性労働者に対する差別的な低賃金に反対する労働者の運動のなかで、「男女同一賃金」要求として出発した。その後、差別賃金撤廃要求は、労働者間のあらゆる差異を利用した差別賃金が労働者階級全体の賃金水準低下につながることが自覚されるにつれ、男女間にとどまらず、年齢、人種などにまで拡大していくこととなった。こうした労働者階級の運動を背景に、1919年には国際労働憲章において、また、1951年にはILO(国際労働機関)第100号条約という形で具体化され、国際的な原則として確立されるに至った。日本においても、第二次世界大戦後、日本国憲法による差別禁止規定(14条)を受け、労働基準法に「使用者は、労働者が女性であることを理由として、賃金について、男性と差別的取扱いをしてはならない」(4条)と規定された。しかし、さまざまな理由をつけた賃金差別は依然として根強く残っている。職務給は、しばしば、この原則に沿ったもののようにいわれるが、労働の種類に初めから差別・格差が持ち込まれており、むしろこの原則と対立する内容をもつ。
1970年代以降、欧米を中心に、これまでの「同一労働同一賃金」にかわって「同一価値労働同一賃金」(コンパラブル・ワースcomparable worth)の要求が登場し、法制化する国も現れている。これは、同じ職種であることを前提とした「同一労働」に対する同一賃金原則では、職域の性別分離が広範に存在するもとでは男女の賃金格差の是正にはつながらないとして、職種の違いを超えて技能・熟練の程度・責任などの点で同等の価値をもつと評価された仕事には同等の賃金を支払うことを求める取組みである。日本においても関心が高まっているが、前提となる職務評価の客観性をどのように確立するかなど検討すべき点も多く、なお評価が分かれている。
1985年(昭和60)に、雇用上の性差別是正を目的として男女雇用機会均等法(雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等女子労働者の福祉の増進に関する法律)が制定された。しかし女性に対する性差別が依然として解消されないことから1997年(平成9)に改正が行われ、これまでの解雇・定年・退職および福利厚生における差別禁止に、新たに募集・採用、配置・昇進、教育訓練に関する差別禁止も加えられて内容が強化された。しかし他方で、女性に対する時間外・休日労働、深夜業の規制が撤廃されるなど、保護規定は後退した。これらの施策が男女の賃金格差の縮小に寄与することが期待されてはいるが、かならずしもその保証はない。
[横山寿一]
日本では1990年代後半以降、パート、アルバイト、派遣社員などの非正規雇用者が増大(2018年で2165万人、全体の38.3%)し、正規雇用と非正規雇用の賃金・待遇格差が問題になった。このため安倍晋三(あべしんぞう)政権は2016年(平成28)、一億総活躍社会を実現するために同一労働同一賃金の方針を掲げ、2018年に正規雇用との間の不合理な待遇差を禁じた、働き方改革関連法(改正労働契約法、改正パートタイム労働法、改正労働者派遣法など)を成立させた。仕事の内容や業績、責任の重さ、転勤や異動の有無などがすべて同じ場合に、差別は違法となる。待遇ごとに不合理かどうかを判断すべきとの考えを明確にし、待遇差の理由を非正規雇用者に説明する義務を課した。同法は、大企業については2020年4月に、中小企業は2021年4月に施行。政府は2018年、同法に沿ったガイドラインを示し、通勤手当、出張旅費、扶養手当、深夜・休日手当の割増率、年末年始手当、特定地域勤務補償などの手当のほか、慶弔休暇、病気休職、社員食堂・休憩室・更衣室の利用などの福利厚生で格差を認めない方針を示した。一方、基本給、賞与、昇給については、職業経験や能力、業績・成果、勤続年数などが同じなら原則同額にするものの、職務責任、経験、成果に応じた支給差を認める考えを示した。最高裁判所は2020年(令和2)、正規雇用と非正規雇用の待遇格差をめぐる五つの判決を出し、扶養手当や有給病気休暇などで格差をつけるのは不合理との判断を示す一方、賞与や退職金の目的を「正社員としての職務を遂行し得る人材の確保・定着」(有為人材確保論)と指摘し、職務責任の違いなどから支給の有無の差を不合理とまではいえないと判断した。
[矢野 武 2021年3月22日]
『中島通子・山田省三・中下裕子著『男女同一賃金』(1994・有斐閣)』▽『木下武男著『日本人の賃金』(平凡社新書)』
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…国際的な母性保護基準のおもなものとして,ILO条約には,深夜業ならびに夜業の禁止(4号,41号,89号,171号),母性保護勧告(95号),社会保障の最低基準に関する条約(102号),母性保護に関する条約(103号)などがある。 男女平等権としての男女同一労働同一賃金要求は,1889年の第二インターナショナル結成以前にもあらわれていたが,とくに第1次大戦中,女性労働者が男子に代わって重要産業部門に進出するにつれて,この要求が高まり,1919年のILO憲章でこの原則の重要性が宣言された。しかし同一価値労働についての男女労働者に対する同一報酬条約(100号),90号勧告として採択されたのは51年である。…
…同一質量の労働には,性,年齢,民族などの労働者の属性にかかわりなく,同一賃金率で賃金を支払う原則をいう。略して同一労働同一賃金ということが多い。資本主義は商品経済を通じて等価交換をもたらすのであるから,この原則は資本主義社会においても成立する根拠をもつ。…
※「同一労働同一賃金」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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