過労死(読み)カロウシ

デジタル大辞泉 「過労死」の意味・読み・例文・類語

かろう‐し〔クワラウ‐〕【過労死】

長時間労働・不規則な勤務・頻繁な出張など業務に起因する極度の過労やストレス長期間にわたる疲労の蓄積などにより、脳疾患や心臓疾患を起こし死亡すること。→過労死認定基準

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共同通信ニュース用語解説 「過労死」の解説

過労死

仕事での過重な負担が原因で、くも膜下出血心筋梗塞といった脳・心臓疾患にかかり死亡すること。脳・心臓疾患での労災認定では、疲労の蓄積要因として労働時間重視。残業が発症前2~6カ月の平均で月80時間、直近1カ月間で100時間が「過労死ライン」とされ、勤務が不規則など労働時間以外の負荷や強い精神的ストレスも判断材料になる。

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精選版 日本国語大辞典 「過労死」の意味・読み・例文・類語

かろう‐しクヮラウ‥【過労死】

  1. 〘 名詞 〙 働きすぎなどによって疲労がたまり、それが原因となって起こる突然の死。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「過労死」の意味・わかりやすい解説

過労死
かろうし

長時間過密労働、深夜勤、海外出張、単身赴任等による極度の過労やストレスを原因とする死亡のこと。脳出血、くも膜下出血、急性心不全、心筋梗塞(こうそく)など、脳や心臓疾患による死亡が圧倒的に大きな比重を占めている。さらにうつ病や燃えつき症候群に陥り、自殺する者も多く、過労自殺として大きな社会問題になってきた。厚生労働省の発表によると、2007年度(平成19)の脳・心臓疾患の労働者災害補償保険(労災)申請件数は931件、精神障害は952件で、2003年度と比較するとそれぞれ約25%、約213%増加している。脳・心臓疾患は日常生活や遺伝等に起因する諸要因で徐々に悪化して発病するものであるが、このうち仕事がおもな要因で発症する場合があり、これらが過労死として労災認定されている。従来は発症前の1週間程度の業務量、業務内容等を中心に業務の過重性が評価されてきたが、2001年からは仕事による長期にわたる疲労の蓄積も考慮されるようになっている。ちなみに、2007年度の申請件数のうち、労災として認定されたのは脳・心臓疾患で392件、精神障害で268件となっている。さらに、精神障害のなかで自殺として申請されているのは164件で、このうち81件が労災として認定されている。年齢別では、脳・心臓疾患が50歳代、精神障害は30歳代の比率が高くなっている。

 過労死が社会問題として注目されるようになるのは1980年代のなかごろからであるが、当初は過労死の労災認定が困難なため、遺族が泣き寝入りをするケースがほとんどであった。この点を問題視した弁護士の有志によって、1988年(昭和63)に「過労死弁護団全国連絡会議」が結成され、「過労死110番」が全国の都道府県に設けられ、家族の相談に応じるようになった。過労死は欧米のビジネス社会にも存在しないわけではないが、日本のように広範な階層を巻き込み社会問題化するに至っていないため、現代においてもKAROUSHIという日本語が国際的に通用している。

 過労死や過労自殺の労災認定のためには、この死亡が業務に起因するものであることを証明しなければならないが、企業の協力は得られないため、過労死の労災認定は労働行政の厚い壁に阻まれている。

[湯浅良雄]

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改訂新版 世界大百科事典 「過労死」の意味・わかりやすい解説

過労死 (かろうし)

働き過ぎ(過労)による死亡。とくに1970年代から80年代にかけてのリストラ合理化の厳しい状況下での長時間労働,深夜勤務などの連続による過労から,脳血管疾患,心臓疾患(虚血性心疾患,不整脈)などの持病が悪化して死亡したり,過度の精神緊張の連続からうつ病にかかり自殺したりする例が増えた。労働者の在職中の死亡の中で業務による過労死は,労災補償の対象になる。しかし,遺族の労災補償申請の大多数は,労働省の厳しい認定基準によって却下されていた。

 1982年,上畑・田尻らが,こうした実際を詳細に記載し,業務上疾病としての認定と予防の問題点を指摘した著書《過労死-脳・心臓系疾病の業務上認定と予防》で過労死の名称が採用され,それ以降に広く普及した。英文書の《KAROUSI》(1990)によっても先進工業国で有名になった。88年,過労死弁護団が全国で〈過労死110番〉を始めたところから,過労死が広範な産業で現業労働者にとどまらず管理職にも女性にも起こっていること,過労による自殺例も多いことなどがマスコミによって広く伝えられ,過重な労働のストレスに悩み,健康に不安を抱く多くの人々の関心を高めた。また日本の医学分野の突然死の研究もこれによって促進され,拘束性が高くストレスの強い仕事,長時間の勤務,夜勤の連続などが,高血圧,心電図異常などと重なると死亡の危険率が高いことが指摘された。これは欧米での研究とも一致する。

 1980年代から90年代にかけて,労働省の認定基準を批判し,申請を却下した行政処分を覆す裁判判決が徐々に増え,過労死の遺族の救済と予防の社会的な運動が高まった。労働省は,この推移に関わらず過労死の存在を公的に認めなかったが,1996年1月にいたり最高裁が過労によるうつ病から自殺した例を含む2例の過労死認定判決を出したことを受けて,過労死を公式に認め,健康管理の充実のための労働安全衛生法の改正を行った。しかし,過労死認定基準は改正されたが,ヨーロッパ先進工業国のような残業・夜勤の法的規制はなく,過労死遺族の救済と予防の根本的解決は残されている。過労による死亡は社会的な諸条件が貧困な時代にもあったが,今日の過労による死亡は,人権思想が普及し,保健・医療の諸制度が発達し,時間短縮・週休2日の普及が一般的になった時代の問題である。
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知恵蔵 「過労死」の解説

過労死

長時間労働や過密労働など、業務における過重な肉体的・心理的負荷を原因とする死。脳血管疾患、心臓疾患の他、過労による精神障害を原因とする「過労自死(自殺)」も含まれる。過労死は医学用語ではないが、「過労死等防止対策推進法」(2014年制定)で初めて法的に定義された。
日本人の働き過ぎは高度経済成長期から問題になっていたが、「過労死」が社会問題化したのは、バブル期に突入する1980年代後半である。88年に弁護士グループによる相談窓口「過労死110番」が大阪に開設され、全国に拡大。「突然死」と共に社会に定着し、その後 Karoshi として国際的にも使用されるようになった。
当初はほとんど労災認定されなかったが、90年代に入ると申請数・認定数とも徐々に増加し、91年に初めて企業に損害賠償を求める訴訟が起こると、その後行政訴訟も増えた。原告勝訴も相次いだため、消極的だった行政も対策に乗り出すようになった。99年、厚生労働省が労災の判断指針を見直し、うつ病などによる過労自殺も労災認定するように変更。更に2001年には、脳・心臓疾患の認定基準に長時間労働による疲労の蓄積も考慮に入れるように変更した。なお、過労死を引き起こす過重労働の評価基準(過労死ライン)は、発症前の1カ月間に100時間を超える時間外労働、または2~6カ月に及ぶ月80時間を超える時間外労働が目安になっている。
しかし、その後も長時間労働の現状は改善されず、08年に大手居酒屋チェーン「ワタミ」の入社2カ月の女性社員(当時26歳)が過労を理由に自殺した事件、15年末にも大手広告代理店「電通」の入社9カ月の女性社員(当時24歳)が同じく自殺した事件が起こり、社会に大きな衝撃を与えた(いずれも労災認定)。過労死は中高年男性が大半だったが、過酷な労働環境に置かれた若年層の「過労自殺」という新たな問題を社会に突きつけたのである。
14年に制定された「過労死等防止対策推進法」は、過労死のない社会の実現に向けて、国・地方公共団体に「過労死の実態調査・情報収集」「相談体制の整備」「民間団体の活動支援」「啓発月間(11月)の啓発活動」「年次報告書の提出」などを義務付けている。しかし、企業の責務や労働時間の上限といった具体的な規制はないため、新たな法整備や労働基準法改正による残業時間の上限設定などを求める声も出ている。

(大迫秀樹 フリー編集者/2016年)

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「過労死」の意味・わかりやすい解説

過労死
かろうし
death from overwork

仕事上の過労やストレスが極度に達して起る死亡。突然死と呼ばれるケースもある。クモ膜下出血や心筋梗塞など脳血管疾患,虚血性心臓疾患によることが多い。過労が引き金となっての死亡は必ずしも近年のことではないが,生理的限界をこえた日本の長時間・過密労働と密接に関連するものとして問題となり,1982年に社会医学的に「過労死」と命名され,88年弁護士による「過労死 110番全国ネット」という電話相談の開設以来,社会的用語として定着した。国際的にも KAROSHI,または Death From Overworkとして知られ,91年には国連人権小委員会で論議されるにいたった。労働者災害補償保険法 (民間一般。船員は船員保険法,公務員は国家公務員災害補償法及び地方公務員災害補償法) は,業務上の死亡に対して補償を定めているが,90年の過労死の労災申請 597件に対し,認定は 33件にとどまっている。「業務上」の認定には「日常業務に比較して特に過重な業務」に「発症前1週間以内」を限度として従事していることなどのきびしい基準を設けており,過労死が業務上に起因するか否かをめぐって裁判上の係争事項になっているケースも多い。過労死弁護団全国連絡会議の「過労死 110番」は各都道府県に設けられ,厚生労働省系の財団法人労災年金福祉協会が相談窓口を常設している。

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百科事典マイペディア 「過労死」の意味・わかりやすい解説

過労死【かろうし】

業務による過労,ストレスが原因で死亡すること。業務上の疾病・死亡かどうかについて労働基準監督署に労災申請し,労働災害と認められた場合初めて補償給付が受けられる。過労死の死因の8割は急性心不全,クモ膜下出血,脳出血である。高血圧や動脈硬化などの基礎疾病を,過重な業務が急に亢進させ,脳血管疾患,虚血性心疾患などによる突然死をひきおこす,また継続的なストレスのための自殺といったケースが多いが,従来は死亡原因が業務に起因するかどうかの判定が困難なため,遺族が救済されないケースが多かった。これを重くみた弁護士たちによって1988年〈過労死110番〉が発足,過労死弁護団全国連絡会議も結成され,労災申請などの無料相談を行っている。また,1996年2月,労働省は,従来,死の直前の業務負担を重視しすぎていたのを見直し,心理的,精神的な業務負担が継続している場合も過労死の原因として評価することを決めた。
→関連項目突然死

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人事労務用語辞典 「過労死」の解説

過労死

仕事で積み重なった過労や精神的なストレスが原因の一つとなって、疾病や自殺などで死亡することを言います。過度な労働を課す日本企業の特異な現象として、外国でもkaroushiと呼ばれています。労災認定の中から生まれた言葉で、臨床医学的な用語ではありません。
(2005/5/23掲載)

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