改訂新版 世界大百科事典 「改良木材」の意味・わかりやすい解説
改良木材 (かいりょうもくざい)
improved wood
合板,パーティクルボード,集成材などのように,主原料として木材を使用しているが,これを天然のまま用いるのではなく種々の処理を施して新しく製造した木質系材料の総称。最近では木質材料とも呼ばれる。セルロースやリグニンのような木材質を構成する化学的組成分にまで分解して利用しようというのではなく,天然の木材の組織をあまり破壊しない程度にとどめ,そのもっている美観とか強さとかの木材の特徴を材料に加工された後も保持しつづけるようにしたものである。原木から帯のこ,丸のこなどによって所定の寸法,形状に鋸断した材料を製材と呼ぶが,天然の木材そのものである製材に対して,木材を加工,処理して作り上げた改良木材を対比させることがある。なお,合成木材という名称もあるが,これはプラスチック発泡体で天然の木材に似た性能,感触をもたせようとしたものであり,改良木材,木質材料とは別の製品である。
改良木材を製造する目的
木材は材料的に多くの長所があり,昔から大量に使用されてきたが,われわれはこの木材を加工して新しい材料である改良木材を開発しなければならなかった。そのおもな理由として次の3点があげられる。(1)天然の木材からは大材を得にくい。大径木,優良木の伐採が進み,現在では古い木造住宅に見られるような断面の大きな,長大なはり材とか,幅広で厚いテーブルの甲板などの大材を原木から天然のままの木材,すなわち製材品として得ることはきわめて困難になったし,得られたとしても価格の高いものになる。比較的容易に手に入る小材から大材を造りたい。(2)工場廃材,間伐材,建築解体木材などの低質木材資源の有効利用を図らねばならない。木材が再生産可能な資源であることは事実であるが,それは材成長量としての話であり,従来木材工業が対象としていた大径木,優良材の枯渇は激しいものがある。低質材の合理的利用は改良木材への転換によって実現される。(3)すべての材料がそうであるように,木材にも宿命的とでもいうべき欠点が多々ある。木材の短所としては耐火性,耐久性,耐虫性に使用の条件によっては問題が生ずることがあること,節(ふし),割れなどの欠点の存在,吸湿性の大きいこと,吸湿による狂い,反りの発生,強度,収縮膨張の異方性がつよいことなどがあげられる。これらの特性は反面大きな長所と見ることもできるが,材料的にはやはり短所としてとらえるべきで,これらの短所を改良する努力が続けられてきた。改良木材という言葉には木材から木材よりも優れたものを造るという積極的な意味があるが,最近では,(1)(2)であげた小材から大材を得ること,廃材の有効利用のほうが重要な意味をもつようになり,改良の意味が薄れてきたようである。このことから改良木材を木質材料と呼ぶことが多くなってきている。現在,木材工業の中心は製材工業から集成材,合板,パーティクルボード,ファイバーボードなどの材料およびこれらを処理,複合した製品,すなわち改良木材を製造する工業に移ってきたといえよう。
改良木材の種類
改良木材には多種多様なものがあるが,基本となるものとして次の4種があげられる。
(1)集成材 原木から鋸断した挽板(ひきいた)あるいは小角材を木材の繊維方向を互いにほぼ平行にして接着剤を用いて,長さ,幅,厚さの方向に集成接着したもので,おもに建築における柱,はり,階段手すりなどの軸材として用いられる。図に一例として化粧ばり集成柱の断面を示す。
(2)合板 最も歴史が古く,かつ最も多量に使用されている板状の改良木材である。一般に木材を薄くむいた板,すなわち単板を積み重ね,接着剤で貼り合わせて1枚の板としたものであるが,通常は各単板の繊維方向を1枚ごとに直交させ,奇数枚合せとする。住宅,家具生産になくてはならない平面材料である。
(3)パーティクルボード 木材小片(チップ)に接着剤をスプレー塗布し,熱圧して成板した板状製品で,家具製造に用いられてきたが,最近では建築材料,とくに床下地材としても使用されるようになってきた。
(4)ファイバーボード 木材,ときにはその他の植物繊維をこれに加えて原料とし,これらをいったん繊維化してから成形した板状製品の総称。比重によってインシュレーションファイバーボード,セミハードボード,ハードボードの3種に分類される。工業材料,建築材料に用いられる。
集成材,パーティクルボード,ファイバーボードなどは小材から大断面,中断面の角材や幅広な板材を作った例であり,合板,集成材は節などの欠点の除去,分散,集成効果による性能の向上が実現されているものである。パーティクルボード,ファイバーボードは廃材利用の典型である。
(5)合成樹脂や薬剤処理した材料,木質系複合材料 基本的な改良木材を4種あげたが,これらの材料に,あるいは木材そのものに樹脂処理,薬剤処理を行ったり,材料どうしの複合化を行ったものが多数製品化されている。WPC(wood plastic combinationの略)と呼ばれるものは,木材中にメチルメタクリレートやスチレンのモノマーを注入し,木材組成分とグラフト重合を生じさせることをねらったもので,寸法安定性,強度,硬度の高いものが得られている。床仕上げ材,ゴルフクラブのヘッドなどに実用化もされている。薄い単板にフェノール樹脂を含浸させ,高い圧力をかけて加熱硬化させた硬化積層材はきわめて高い強度を示すが,今日では特殊な用途にしか用いられない。また,これと同じ原理であるが木材に合成樹脂(おもにフェノール樹脂)をあらかじめ浸透させておき,これを高い圧力で圧縮して細胞空隙(くうげき)を縮小し,繊維を緻密(ちみつ)にして強度を高めた圧縮木材compregなどもある。防腐剤,防虫剤,防火剤を製品に含浸させたり,製造時に接着剤に混入して熱圧接着した防腐木材,防腐合板,防虫木材,防虫合板,防蟻木材,防蟻合板,難燃木材,難燃合板などは今後重要な製品となろう。
改良木材どうしあるいは改良木材と他の材料,すなわち合成樹脂,金属板,アスベストなどを組み合わせて,単一材料では保持しえない優れた性能を発揮させることを目的とした木質系複合材料がある。合板,パーティクルボードを台板とし,その上面に表面の性能向上,美化などを目的として合成樹脂板,合成樹脂含浸紙,木目の美しい単板(突き板とも呼ぶ)などを貼った(オーバーレイ)もの,パーティクルボード,ウレタン樹脂発泡体,樹脂加工をした紙をハチの巣状に組み合わせたペーパーハニカムなどを中心層(コア)とし,その両面に合板,単板を貼ったものなど多数の製品が作られ,家具,建築内装に用いられている。
改良木材の製造
すべての改良木材は再構成された材料といえる。すなわち,原料である木材を細分化し,これを接着剤で合体しなおしたものである。原料を細分化することによって原料形状の不整を克服することができ,このことは原料木材の利用範囲を拡大し,廃材利用を可能にした。また製造工程を単純化し,自動化をも可能にし,さらにこの細分化されたエレメント(構成要素)を再構成することによって,製品の形状,大きさとその特性の幅を広げることができたのである。改良木材のエレメント(構成要素)には種々のものがあり,それぞれ名称がつけられている。表におもな改良木材とこれを構成するエレメントを示す。
エレメントを接着剤で結合し,合体させれば改良木材が得られる。個々の改良木材製造に用いられる機械装置は,それぞれ独自のものがあるが,製造工程の流れは一般的に次のようにまとめることができる。
(1)切削 原料である木材を切削(分割)することによってエレメントが得られ,使用する原料の形状,目的とするエレメントの形状に適した切削,分割機が使われている。(2)乾燥 接着工程の前処理として,また製品の狂い,割れ防止のためにエレメントの乾燥は不可欠である。乾燥には各種のドライヤーを用いるが,一般にファン,ヒーターによって熱風を作り,この中にエレメントを通過させる方法をとる。(3)接着 エレメントを結合,合体させる接着工程はきわめて重要な工程である。この操作は,スプレッダー,スプレー装置などによる接着剤塗布工程,プレス,クランプなどによるエレメントの密着,および接着剤の硬化の工程からなる。(4)仕上げ エレメントが合体されて,ここに得られた材料は定尺裁断,表面研磨,塗装などの仕上げ加工がなされる。(5)樹脂処理,薬品処理など 以上の工程によって改良木材はでき上がるが,さらに樹脂処理,薬品処理を行って,用途に適した性能を付与する場合がある。この際,前記の工程の途中でこれらの処理を行う場合と,でき上がった製品に処理を行う場合がある。また製材品にこのような処理を行うこともある。(6)複合化 改良木材どうしの複合,あるいは他材料との複合を行って,単一材料では保持しえない優れた性能をもった製品を作り出すことができる。
改良木材の将来
石油などの化石資源の枯渇が進む中で,木材は再生可能な唯一の資源と考えられ,将来,生活資材のかなりの部分が木材資源,林産バイオマスからの製品に頼らざるをえなくなるのではないかともいわれている。この場合,対象となる再生木材資源は,大径材,優良材ではなく,小径材,間伐材,林地残廃材,工場廃材,建築解体材などの低質材が中心となることは明らかであり,これらの原料を材料に転換するにはエレメントを合体する改良木材の方法が最適と考えられる。改良木材の重要性は増していき,さらに多くの種類の製品が開発されよう。
執筆者:大熊 幹章
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報