デンマークの映画監督。コペンハーゲンに生まれる。新聞の劇評を担当したのち映画界に入り、脚本執筆から監督に進んだ。第一作『裁判長』(1919)はメロドラマと評されたが、グリフィスの『イントレランス』に影響された『サタンの書より』(1919)から人間を厳しく見つめる映画をつくるようになった。第三作『牧師の未亡人』(1920)をスウェーデンでつくり、以後ヨーロッパ各国で製作する国際的監督となった。彼の名を世界的にしたのは『あるじ』(1925)で、リアルな日常生活のなかに改悛(かいしゅん)する人間を意味深く描いた。フランスに招かれて撮った『裁かるるジャンヌ(裁かるゝジャンヌ)』(1928)はサイレント末期の傑作である。トーキー第一作の『吸血鬼』(1932)から10年の沈黙ののち、祖国のナチス占領下の状況に触発されて、魔女狩りに託して抵抗の姿勢を示した『怒りの日』(1943)を発表。第二次世界大戦後の『奇跡』(1955)では人間の尊厳を描いた。また遺作『ゲアトルード』(1964)では女の愛と絶望を見つめた。ほかに戦中戦後にかけて政府委嘱の短編数本がある。北欧的神秘主義を受け継ぎ、つねに緻密(ちみつ)な表現で人間の苦悩を深くとらえた。
[登川直樹]
裁判長 Præsidenten(1919)
サタンの書より Blade af Satans bog(1919)
牧師の未亡人 Prästänkan(1920)
不運な人々 Die Gezeichneten(1922)
むかしむかし Der var engang(1922)
ミカエル Mikaël(1924)
あるじ Du skal ære din hustru(1925)
裁かるゝジャンヌ La passion de Jeanne d'Arc(1928)
吸血鬼 Vampyr(1931)
怒りの日 Vredens dag(1943)
二人の人間 Två människor(1944)
奇跡 Ordet(1955)
ゲアトルード Gertrud(1964)
デンマークの天文学者。コペンハーゲンで生まれ、コペンハーゲン大学で学ぶ。1874年、アイルランドのロス卿天文台の助手になり、おもにアイルランドで研究活動を行った。1878年ダブリン大学のダンシンク天文台に赴き、1882年にはアーマー天文台の台長になる。1882年博士号を取得。1875年に王立天文学会会員、1923年から1926年には同会長を務める。
ロス卿天文台の180センチメートル反射望遠鏡で星雲・星団を観測し始め、1877年に1000個以上の新しい星雲のデータを備えたアーマー目録を、そして1886年には3000個以上の新しい星雲のデータを備えた第二アーマー目録を提出した。さらに、1888年に7840個の星雲・星団を収録した星雲・星団新総目録New General Catalogue of Nebulae and Clusters of Starsを作成した。このカタログはNGC星表とよばれる。また、この目録の追補として1895年と1908年に追加目録(インデックスカタログIndex CatalogueまたはIC星表とよばれる)を作成し、総計1万3000個もの星雲・星団目録となっている。これらの目録は現在よく使われており、多くの星雲、星団はNGCやICの番号でよばれる。目録の業績以外には、天文学史の研究で知られ、ティコ・ブラーエやハーシェルの詳細な伝記を残している。
[編集部 2023年5月18日]
広い意味では乾燥機あるいは乾燥剤の総称であるが、家庭では、毛髪の乾燥や整髪に用いられるヘアードライヤーhair dryerをさすことが多い。ヘアードライヤーの構造は、モーター軸にファンが取り付けられており、その前面にヒーターが配置されている。モーターの回転により取り入れられた空気は、吹出口へ送風される。このときヒーターを通電すると、熱風になって吹出口から吹き出される。この熱風により、洗髪後の髪を乾燥する。また、櫛(くし)やブラシを使用して、好みの髪形をつくり、熱風を当てて髪形をセットすることもできる。消費電力は一般に200~1200ワット程度で、好まれて使われているのは500~1000ワットのものである。一方、女性用としては、吹出口に色々な付属品(たとえば櫛、ロールブラシ、ブローブラシ、アイロン、ノズルなど)を取り付けることにより、好みの髪形が手軽にできるロールブラシドライヤーのほか、頭にかぶって整髪する帽子状のものやスタンドのついた釜(かま)型のものなど、いろいろの種類のものがある。
[茂木正敏]
デンマークの映画監督。デンマーク映画最大の巨匠であり,ジャンヌ・ダルクの苦悩と殉教の意義をクローズアップの連続で彼女の内面に分け入るようにして描き〈サイレント映画最後の傑作〉とされる《裁かるるジャンヌ》(1928),魔女狩りの犠牲となる女性を主人公に17世紀の社会を精神史的に再現した《怒りの日》(1944),狂人と思われていた男の祈りによって一人の女性が死からよみがえる《奇跡》(1955)など,人間の精神の営み,とりわけ信仰について探求した作品は映画史上の特異な存在となっている。
コペンハーゲン生れ。ジャーナリストをへて,1913年に脚本家としてノルディスク社に入社。18年に《裁判長》で監督となる。つづいて,D.W.グリフィス監督の《イントレランス》(1916)の影響をうけ,四つの時代における人間の背信行為を描いた《サタンの書の数頁》(1919)を撮る。《牧師の未亡人》(1920)はスウェーデンで,《ミヒャエル》(1924)はドイツで,《あるじ》(1925)はデンマークに戻って,《裁かるるジャンヌ》はフランス,トーキー第1作の《吸血鬼》(1932)はドイツとフランスというぐあいに国際的監督として活躍した。ドイツの〈室内劇(カンマーシュピール)〉,フランスの〈アバンギャルド映画〉などの影響を吸収しつつスタイルを模索するが,終始一貫していたのは〈精確なセット〉と端役に至るまでの出演者の〈顔〉を重視し,観客に映像の細部のニュアンスまで感じとるよう緊張を強いる画面づくりで,その緊張度は作品を追って高まった。《吸血鬼》から12年ぶりに監督した長編《怒りの日》からは,1シーン=1カットの長回し,カメラと俳優の極度にゆっくりとした動きにより〈神秘性〉を漂わせた独特のスタイルを築いた。
作品の数は少なく,〈愛こそすべてだ〉ということばで終わる最後の作品《ガートルード》(1964)に至るまでの長編は14本。キリストを描く映画の製作準備中に死去した。このシナリオは《カール・ドライヤーのイエス・キリスト》として,のち72年に出版されている。短編も10余本つくっているが,その中で交通安全キャンペーンのためにつくられた《彼らはフェリーに間に合った》(1948)は傑作短編として名高く,スティーブン・スピルバーグがこれをヒントに《激突!》(1972)をつくったことはよく知られている。
執筆者:宇田川 幸洋
一般には乾燥器(ヘアドライヤーなど)や乾燥剤(塗料,インキなどの硬化乾燥を促進させるために用いる工業薬品)のことだが,ここでは後者について述べる。乾性油,半乾性油,または不飽和結合をもつ有機材料を原料とした塗料やインキなどは,空気中で自動酸化によって分子間に橋かけ重合が起こり,三次元化して塗膜を形成する。ドライヤーはこの際生成する過酸化物の分解を促進して連鎖的に反応を進める触媒作用をもつもので,ドライヤー自身は酸化→還元→酸化を順次繰り返す。コバルト,マンガン,鉛などの無機酸および有機酸の塩が用いられるが,多用されているのは樹脂酸塩,リノール酸塩,ナフテン酸塩などの油溶性の有機酸塩である。最近は比較的安価に合成される2-エチルヘキサノン酸塩(オクトエートドライヤーという)なども用いられる。のり状(ホウ酸塩,脂肪酸塩を乾性油と練り合わせたもの)と液状(樹脂酸塩などを石油系溶剤に溶かしたもの)があるが,おもに後者が用いられている。乾燥硬化の活性は金属イオン種により異なり,たとえばコバルト塩は活性が大で酸化活性が強いため,塗膜は空気に接する表面から,速やかに硬化する。マンガン塩はコバルトに次いで高活性で,生成膜は強靱で硬い。鉛塩は酸化作用は弱いが,重合作用が大きい。このため硬化は塗膜内部から進行する特徴がある。実際にはこれらの乾燥剤は複合して使用される場合が多く,その活性の特徴を生かして良好な塗膜とする。なお現在は,鉛塩については安全性の面を考慮して,その使用を制限している。
執筆者:内田 安三
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…戦後の混乱したドイツに生まれた〈表現主義〉の映画《カリガリ博士》(1919)が世界の注目を浴びたころ,ドイツの哲学者コンラート・ランゲは《現在および未来における映画》(1920)の中で,芸術は〈静〉で〈動〉を表現するというイリュージョンで成り立つものであるから,映画が〈動く画面〉を基礎とするかぎり芸術とは無縁であると映画の芸術性を否定したが,20年代を通じて世界の各国で〈サイレント映画〉の芸術性が追究された。例えばフランスでは,アベル・ガンスが《鉄路の白薔薇》(1923)をつくり,グリフィスのモンタージュを視覚的なリズムによる心理的なモンタージュに発展させ,カール・ドライヤーは《裁かるるジャンヌ》(1928)で大胆なカメラアングルと,クローズアップを最大限に活用したモンタージュでそれまでの常識を破り,〈サイレント映画〉形式の一つの頂点を示した。また,ドイツ映画の黄金時代(古典時代)を代表するフリードリヒ・W.ムルナウの《最後の人》(1925)は,文学的な借物であるタイトル(字幕)を排除し,カメラを自由奔放に駆使して映画以外の手段では不可能な映画的表現を開拓した。…
…世界映画史上,デンマークはまず,接吻とバンプvampを生んだ国として知られ,次いでカール・ドライヤーという巨匠の名に値する大監督を生んだ国として評価される。 1906年に世界で最初のメジャー(大手)の映画会社の一つ,ノルディスク社がオーレ・オルセンによって創立され,10年代には早くも最初の黄金時代を迎える。…
※「ドライヤー」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
年齢を問わず、多様なキャリア形成で活躍する働き方。企業には専門人材の育成支援やリスキリング(学び直し)の機会提供、女性活躍推進や従業員と役員の接点拡大などが求められる。人材の確保につながり、従業員を...
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