大学事典 「教育課程の共同設置」の解説
教育課程の共同設置
きょういくかていのきょうどうせっち
複数の大学が連携し,共同して教育課程を開設,提供し,学位を連名で授与するもの。国内においては2008年(平成20)11月に大学設置基準等の一部改正がなされ,「共同教育課程」が編成できるようになった。また外国大学との教育連携については中央教育審議会大学分科会により,ジョイント・ディグリーおよびダブル・ディグリー等に関する考え方が示され,これに基づき2014年11月に大学設置基準等の一部改正がなされた。
大学は伝統的には単独で,教育や学位授与に必要な教員や教室など教育リソースを学科・専攻ごとに用意し,教育課程を開設,提供していた。しかし時代の流れとともに,他大学の教育や指導も受講可能とする方が幅広い魅力ある教育を提供できることが見いだされ,これを可能とする方法が複数生み出されてきた。最も基本的な方法は他大学において受講した科目の単位を学生の所属する大学における単位として認める方法であり,「単位互換制度」と呼ばれる。これは国際的にも広く行われている。その他大学院等において,他大学や研究所等においても指導を受けられる「連携大学院制度」もある。これら二者は基本的に,学生の関心に応じて他大学の科目や指導を教育に組み入れる方法であるが,より組織的に,複数の大学が事前の協議等を経て,共同で教育課程を提供する連合大学院(日本)という方法もある。
連合大学院は,「教育課程の共同設置」と理解することも可能であるが,制度上,連合大学院は単位互換制度に則った教育課程の設置方式であり,教員や学生は基幹となる大学院に所属し,他大学で修得した単位は基幹となる大学の単位として組み込まれる。学位も基幹となる大学の名義で授与される。これに対して,共同教育課程制度(日本)では各構成大学が対等な立場で参画し,学位も連名で授与する。教員は各構成大学に所属し,学生はすべての構成大学に在籍する。単位互換制度の援用では実現できず,大学設置基準等の一部改正を必要とした所以である。なお事例としては,連合大学院は農学,教職,医薬の分野など,単一の大学に十分な教育資源のない分野に多い。共同教育課程についても学部段階については,国際水準の教育の実現等の観点から教育研究体制の充実が必要とされた獣医学部の共同設置が進んでいる。大学院における共同教育課程は,多様な学際的な分野で設置されつつある(2015年現在)。
複数大学で共同教育課程を提供する方法は,国際的には,①学位記+修了証(サーティフィケイト),②ダブル・ディグリー・プログラム(複数学位プログラム),③ジョイント・ディグリー・プログラムが知られている。いずれにおいても学生は複数の大学で科目を履修し,総修得単位に基づいて学位を授与されるが,学位の形態がそれぞれの場合で異なる。①では,学生が他大学で履修した科目の単位が学生の所属大学の単位として組み込まれ,それに基づいて所属大学から学位が授与され,所属以外の大学からは,一定の教育プログラムを受講し修了した証明として修了証を得る。②では,学生は二つ以上の大学それぞれから学位を授与される。この場合,各大学の学位授与に必要な要件単位数を各大学で修得することが条件のため,大学における総在学年数は原理的には,通常の教育課程の倍以上となる。しかし一部の単位を単位互換制度に基づいてもう一つの大学の単位として組み込むことで,総在学年数を短縮することができる。
日本においては他大学で修得した単位を組み込むことのできる単位数の上限が定められているため,総在学年数の短縮には限界がある。しかし外国においてはこのような制約を設けていない国もあり,各大学が相手大学で修得した単位をすべて認定することにより,事実上,単一の大学を修了するのに必要な在学年数と同一の年数で,二つ以上の学位を同時取得できる場合もある。③では参画大学の連名で単一の学位が授与される。
短縮された総在学年数で複数の学位が授与される②ダブル・ディグリーは,学位の質保証上,問題があるとみなされることもあり,それに対して,学習量に応じた学位が授与される③ジョイント・ディグリーの方が適正であるとする見方もある。しかし外国大学とのジョイント・ディグリーは,国内法に照らして教育課程と学位の質保証をいかに行うかの制度設計が難しく,長いこと実現されなかった。日本においては大学設置基準により,大学設置時の審査がなされ,その後認証評価を定期的に行うことにより,大学の質を保証している。しかしこうした日本の学校教育法等に基づき,外国の大学の教育課程を審査し質を保証することはできない(法の属地主義)。しかし一方で,日本の大学が一部でも関わって授与する学位について,質の保証をまったく行わないというわけにもいかない。なお「共同教育課程制度」については,参画大学がすべて国内大学であるため,早めの実現が可能であった。
結局のところ,外国大学とのジョイント・ディグリーについては,国内大学に国際連携教育課程(日本)の設置を求め,外国大学にて修得した単位を同教育課程の単位に組み込むことで,外国大学も含む複数大学連名によるジョイント・ディグリーであっても,実現可能としている。
著者: 船守美穂
参考文献: //www. mext. go. jp/a_menu/koutou/daigakukan/1251913. htm
参考文献: 中央教育審議会大学分科会大学のグローバル化に関するワーキング・グループ「我が国の大学と外国の大学間におけるジョイント・ディグリー及びダブル・ディグリー等国際共同学位プログラム構築に関するガイドライン」,2014.
参考文献: Institute of International Education, Joint and Double Degree Programs in the Global Context: Report on an International Survey, 2011.
出典 平凡社「大学事典」大学事典について 情報