法を制定した権力の支配が及んでいる領域内を、その法の適用範囲とし、自国の領域内で発生した事象に自国の法を適用するという原則をいう。
[道垣内正人 2022年4月19日]
国家の立法管轄権・司法管轄権・執行管轄権を自国の領域内でのみ行使するという考え方。一般に、執行管轄権は物理的な権力行使を伴うことから、これを他国の領域内の人や事象に対して行使することは国際法違反になるとされており、これは現在でも一般的な考え方である。これに対して、立法管轄と司法管轄については、人や企業の活動が国境を越えて行われることから、属地主義のみでは法目的を達成できないことが少なくなくなっているため、自国と一定の関係がある場合には領域外の事象に対しても立法管轄や司法管轄を行使することがある。とくに問題を惹起(じゃっき)しているのは立法管轄権の域外行使、すなわち法の域外適用である。たとえば、刑法の定める犯罪については、各国に大きな違いはないことから、日本の刑法が、公益上重大な犯罪である内乱罪や通貨偽造罪については国外で何人がその罪を犯そうとも処罰し(刑法2条)、それらよりも公益性がやや低い殺人罪や名誉毀損(きそん)罪などは日本人が行為者である場合に国外犯として処罰することとしている(刑法3条)ことは、大きな問題とはなっていないが、国によって規制の内容や程度が大きく異なる経済法規の域外適用については、国家間の対立に発展する例もある。とくに、アメリカの独占禁止法、証券取引法、輸出管理法、環境規制法の域外適用をめぐっては、他の国から主権侵害ではないかとの抗議を受けるケースが頻発してきた。今日では、域外でされた行為であっても、その効果が自国に実質的な影響を与える場合には、その行為に対して自国法を適用するという効果理論に基づく法の適用がアメリカ以外の国でも認められるようになっており、日本でもそのような立場が支持されてきている。他方、司法管轄については、民事裁判の場合には、自国の領域外にいる被告に対しても、不法行為地が国内である不法行為事件とか、自国と一定の関係のある離婚事件について裁判を行っているところ、司法管轄権の行使自体が問題となることはあまりなく、問題となるとすれば、その裁判のなかで立法管轄権の域外行使の部分であるのが通常である。
[道垣内正人 2022年4月19日]
13世紀ごろ、ルネサンス期のローマ法研究(後期注解学派)のなかから生まれた法規分類説(法則区別説)によれば、法規を物に関する法規(「物法」)と人に関する法規(「人法」)とに分け、「物法」は属地的に適用し、「人法」は属人的に適用するとされた。これは自国の法律の地域的な適用範囲を考えるという発想に基づくものであり、たとえば「物法」に属する物権に関する規定は、事案に関係する当事者のいかんにかかわらず、自国領域内での物権問題である限り、自国法をつねにそれに適用し(属地的適用)、他方、たとえば「人法」に属する人の能力や身分に関する規定は、他国の領域内にいても、自国民に対してはつねに自国法を適用するとされた(属人的適用)。現在の国際私法の仕組みにおいては、連結点(特定の地の法律を導き出すことのできる場所的要素。連結素ともいう)を介して準拠法(適用される法律)が定められているので、法の属地的適用という言い方はされないが、動産および不動産の物権問題について所在地法を適用し(「法の適用に関する通則法」13条)、また、不法行為によって生ずる債権の成立および効力について加害行為の結果が発生した地の法を原則として適用するのは(同法17条)、かつての法規分類説からみれば属地主義であるということができよう。
私法の適用関係を規律する国際私法から離れ、公法の国際的な適用関係に目を移すと、現在でも法の地域的適用範囲に入るのか否かという発想が採用されている。たとえば、特許については属地主義がとられるとされるのはその例である。一般に、公法は属地主義による適用がなされるが、法目的達成のために必要があれば域外適用がなされることは既述のとおりである。
[道垣内正人 2022年4月19日]
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[刑法の適用範囲]
刑法の人・場所に関する効力,すなわち刑法が,どのような人によってどのような場所で行われた犯罪に適用されるかについては,四つの基本的な考え方がある。その一は,犯人の国籍のいかんを問わず,自国の領域内で生じたいっさいの犯罪に対して自国の刑法を適用すべきだとする属地(法)主義。その二は,犯人が自国民であるかぎり犯罪地のいかんを問わず(外国であっても)自国の刑法を適用すべきであるとする属人(法)主義。…
…将来国際刑事裁判所が創設されれば,そこで適用される実体法・手続法は国際刑事法の基本的な内容となる。 刑法の場所的適用範囲に関しては,属地主義,属人主義,保護主義,世界主義の四つの原理がある。(1)属地主義は,犯罪が自国の領域内(国内)で行われた場合には,なんぴとを問わず自国の刑法を適用する,という原理で,国家の領域主権に基づく。…
※「属地主義」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
年齢を問わず、多様なキャリア形成で活躍する働き方。企業には専門人材の育成支援やリスキリング(学び直し)の機会提供、女性活躍推進や従業員と役員の接点拡大などが求められる。人材の確保につながり、従業員を...
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