斎う(読み)いわう

精選版 日本国語大辞典 「斎う」の意味・読み・例文・類語

いわ・ういはふ【斎・祝】

  1. 〘 他動詞 ワ行五(ハ四) 〙
  2. [ 一 ] ( 斎 )
    1. けがれをきよめ、忌みつつしんで、よいことを求める。後に残った者が、現状をかえたりせずに、精進を守って、外に出た者の安全を祈ることなど。
      1. [初出の実例]「高麗錦(こまにしき)紐の結びも解き放(さ)けず斎(いはひ)て待てどしるしなきかも」(出典万葉集(8C後)一二・二九七五)
    2. 吉事をもとめて、神事をおこなう。呪言をとなえ、捧げ物をして、幸せを念ずる。
      1. [初出の実例]「留まれる我は幣(ぬさ)引き斎(いはひ)つつ君をばやらむはや帰りませ」(出典:万葉集(8C後)八・一四五三)
    3. 神がその力をもって、人の幸せを守る。
      1. [初出の実例]「大船に真楫(まかぢ)しじ貫(ぬ)きこの吾児(あご)を韓国(からくに)へ遣る伊波敝(イハヘ)神たち」(出典:万葉集(8C後)一九・四二四〇)
    4. 神聖なものとして祭る。神としてあがめる。「いつく(斎)」と似た意味となる。
      1. [初出の実例]「朕の世に当りて、神祇を祭祀(イハヒマツル)こと、豈怠ること有ることを得むや」(出典:日本書紀(720)垂仁二五年二月(北野本訓))
      2. 「大安寺の房は南塔院と云ふ所也。其(そこ)にも大菩薩(だいぼさつ)の暫く御(おはし)まししに依て、宝殿を造て祝(いはひ)奉れり」(出典:今昔物語集(1120頃か)一二)
    5. ( の意から ) (貴い身分として)たいせつにする。かしずく。秘蔵する。
      1. [初出の実例]「今は、うたがふところなく、程嬰に心おゆるし、一の大臣にいわいたもふ」(出典:曾我物語(南北朝頃)一)
  3. [ 二 ] ( 祝 ) 吉事を祈り喜ぶ。呪術の一つで、祝福すると、その通りの状態が現われるという信仰に基づく。
    1. 将来の幸運をいのる。また、縁起のよい事をいう。
      1. [初出の実例]「鶴亀につけて君を思ひ、人をもいはひ」(出典:古今和歌集(905‐914)仮名序)
    2. めでたい物事について、よろこびの気持を、改まった言葉や動作で表わす。
      1. [初出の実例]「逃げんとするを、とらへてひきとどめて、すずろに飲ませつれば〈略〉前後もしらず倒れふす。いはふべき日などは浅ましかりぬべし」(出典:徒然草(1331頃)一七五)
    3. ( 祝福をするために贈り物をする意から ) 物を贈る。祝儀の金銭を与える。
      1. [初出の実例]「さらばまちっと祝(イハ)はふと銭ざし抜いて五六十」(出典:浄瑠璃・大経師昔暦(1715)下)

斎うの語誌

( 1 )原義潔斎して呪術を行なう意。万葉集では斎、忌の字をあてる。[ 一 ]の挙例「万葉‐二九七五」は、忌みつつしんで相手の無事や再会を祈願するという例。神に向かって祈る場合も、神官が神社や神木を祭るのも同様の意味をもつ。→「いむ(忌)」の語誌。
( 2 )類義語イツクは祭り仕える意。ただ「祝部(はふり)らが斎(いは)ふ社」〔万葉‐二三〇九〕とも、「住吉(すみのえ)に伊都久(イツク)(はふり)」〔万葉‐四二四三〕ともいうので、イハフとイツクは崇め祭るという点で重なる部分がある。また「木綿(ゆふ)かけて祭る三諸(みもろ)の神」〔万葉‐一三七七〕と「木綿かけて斎(いは)ふこの神社(もり)」〔万葉‐一三七八〕の例を見ると、マツルとも重なるようであるが、マツルは神への奉仕の意味が大きい。
( 3 )イハフは平安時代以後大切に守る意から祝福の意が生じ、後世もっぱらこの意で用いられるようになる。


ゆま・うゆまふ【斎】

  1. 〘 自動詞 ハ行下二段活用 〙ゆまわる(斎)
    1. [初出の実例]「高橋氏文云〈略〉此を忌火と為て伊波比(いはひ)、由麻閇(ユマヘ)て供御食」(出典:本朝月令(10C中か)六月・朔日内膳司供忌火御飯事)

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報 | 凡例

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