新ピアジェ派(読み)しんピアジェは(その他表記)neo-Piagetian school

最新 心理学事典 「新ピアジェ派」の解説

しんピアジェは
新ピアジェ派
neo-Piagetian school

ピアジェPiaget,J.の発達研究における基本理念や構想は受け継ぎながら,情報処理など近年の認知心理学のもたらした知見を適用して,ピアジェの研究を補完し新たな展開をめざす研究者の総称。ピアジェに対する主な批判や疑問は,各発達段階に対応する認知構造の緊密な全体性,これと関連する認知機能の均質性,子どものコンピテンス軽視などに向けられている。パスクアル・レオーネPascual-Leone,J.は,情報処理の容量差異によって認知発達の段階的な変化がもたらされるとの考えに立ち,ピアジェの発達段階に沿った理論化を試み,検証可能なモデルを提示している。彼は,発達段階は内生的な心的注意メカニズムを反映していると仮定し,中央計算スペースcentral-computing spaceすなわちMスペースM-space(あるいはM容量M-capacity)とよばれる記憶容量が認知機能を支配していると仮定した。MスペースのMは短期記憶に一時に保持できる項目数であり,内的な情報処理の枠組みであるシェマの数に一致する。Mはどの子どもにも共通の定数aと年齢に応じて変化する変数kの和すなわちM=a+kであり,kの増分が段階間の移行を代表している。

 ケースCase,R.も認知発達を情報処理容量の差とするが,パスクアル・レオーネとは異なり,処理スペースの総計total processing space(TPS)は幼児期以降変わらないとする。彼は,問題解決に必要な情報の貯蔵に利用される短期貯蔵スペースshort-term storage space(STSS)と知的操作の実行に割り当てられる操作スペースoperating space(OS)を区別し,TPS=OS+STSSであると提案した。子どもが扱いうる表象のタイプによって四つの発達段階を設け,それぞれの段階でSTSSは増大し,OSは減少するが,同時にOSでの操作効率が増大することが認知発達の主因であると考えた。

 フィッシャーFischer,K.は,発達は子どもと社会的・文化的環境のダイナミックな相互作用の結果であり,認知機能のばらつき,不均質は当然の帰結であるととらえている。子どもは,「特定の状況で組織的に活動する能力」であるスキルをさまざまな状況で使い,思考や学習のスキルを構成していく。支持的な状況では最適水準すなわち最高水準の複雑なスキルが示されるが,子どもには発達の幅があり,認知機能の水準は子どもと環境との適合具合によってばらつきが生じる。子どもはスキルごとに異なる発達の道筋をたどり,あるスキルの発達は子どもによって異なる経路をたどる。このように個人内,個人間でばらつきはあっても,大きな発達時間尺度上では,子どもが制御できる情報のタイプが異なる三つの層にまとめられる10の階層水準を経て複雑さと体制化が進展すると考えられている。

 シーグラーSiegler,R.S.は子どもの誤りを検討するというピアジェの方法を手段としたが,領域普遍な問題解決の論理的ルールではなく,情報処理の観点から,特定の領域で異なる年齢の子どもが用いている問題解決ルールをきめ細かく分析するというルール評価アプローチrule-assessment approachを取った。ルールは一般に二分岐決定木で表わされ,認知発達はいっそう強力なルールを獲得することとして表わされる。近年の神経構成主義neuroconstructivismも,認知発達とは経験に依拠する過程を経てしだいに複雑な心的表象を精緻化していくことだとするピアジェの見解に立つもので,新ピアジェ派といえよう。 →認知発達 →発達段階
〔湯川 良三〕

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