新生児の取り違え(読み)しんせいじのとりちがえ

知恵蔵 「新生児の取り違え」の解説

新生児の取り違え

出産した病院などで、生後間もない赤ちゃん同士が医療従事者のミスなどによって取り違えられ、別の親に渡される事案は、日本では1960年代前後に各地で起きており、66~67年に5件が報道された。近年、大人になって気付いた当事者側が病院側に損害賠償を求めるケースなどもみられる。
73年に赤石英・東北大教授がまとめた論文によれば、取り違えが発覚した事例は57~71年に32件あり、発生件数が更に多いのは確実だという。この背景には施設分娩の急増助産師・看護師の不足があるとみられる。取り違えの発覚は、母親直感、親子が似ていないことへの疑問、子どもの血液型検査の結果などが契機になっているといい、こうした親の疑問に対して病院側が「そんなことはない」と対応しなかったり、ABO式の血液型だけを検査して「問題ない」と否定したりして、解決を長引かせていることが往々にしてみられると指摘されている。また、取り違えを最初に疑った家族が実子を探して引き取ることを希望するのに対し、もう一方の家族は強く抵抗することが多いというものの、特殊な例外を除けば子どもの交換が行われていることが、論文では報告されている。
新生児の体への記名に加えてネームバンドの装着が進むなどした結果、新生児の取り違えのミスはほぼなくなったが、比較的すぐに気付いて解決したケースが91年(青森県)、2002年(福島県)、05年(高知県)に報道されている。また、大人になった当事者側が起こした訴訟では、東京高裁が06年(1958年発生)、東京地裁が2013年(1953年発生)に病院側に賠償を命じている。2018年4月に順天堂医院(東京都文京区)が発表したケースでは、約50年前に取り違えた可能性が高いとして当事者に謝罪したが、実の親についての情報提供の求めには応じなかった。

(原田英美 ライター/2018年)

出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報

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