親と自然の血縁関係で結ばれた子をいう。これに対し,実子に擬制し,人為的に形成された子が養子である。実子は,その父母が法律上の婚姻関係にあるか否かによって,嫡出子と〈嫡出でない子〉に分けられる。一般に,親子間では実子が基本として構成されたのは,血縁に対する信仰があり,血縁至上主義が貫かれたからである。しかし今日の医学の発達により,血縁そのもののもつ意味が大きく変わり,実子とはなにかが新たに問われようとしている。父子関係では,自然的関係を絶対的に確定することができないために,なにをもってその親子関係の構成要素とするかが従来から論議されていた。ところが,これまで,母子関係では,母親が分娩するという事実に基づき血縁が当然に発生すると考えられてきた。しかしながら,人工授精あるいは体外受精児の誕生,体外受精卵の代理母の子宮への移植という急激な医学の発達により,受精,子宮への着床,懐妊が人工的に意のままに行われ,しかも,これらの過程に夫婦以外の第三者が介在するという状態になると,血縁のもつ意味があいまいになってくる。すでにAID(提供者による人工授精)がこの問題を顕在化させてきたが,今後さらに,たとえば,体外受精で,受精卵が妻以外の女性の子宮に移植され,この代理母が妊娠,出産することになれば,その子と代理母間には紛れもなく血縁は存在する。しかし,そのような母子関係の発生は望まれず,逆に,出産しなかった母親とその子との間に親子関係の形成が欲せられているのである。親子の愛情,親子の共同生活を別にすれば,自然的関係で血縁があるというためには,前述の過程のどれがあればよいのか疑問も出てくる。従来,法律関係では,親子について,自然の血縁関係に法律上の親子関係を一致させるのが近代的親子法と考えられてきた。しかしながら,今日の状況では,血縁のもつ意味が非常にあいまいになるのにともない,血縁に対する信仰,血縁至上主義が大きく動揺している。
→親子
執筆者:有地 亨
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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