旋毛虫症(読み)せんもうちゅうしょう(英語表記)Trichinosis

六訂版 家庭医学大全科 「旋毛虫症」の解説

旋毛虫症
せんもうちゅうしょう
Trichinosis
(感染症)

どんな感染症か

 十分に加熱または凍結されていない動物の肉を食べて感染します。国内で明らかになった感染源はクマ肉で、海外ではブタイノシシウマ、そのほか、狩りでしとめたいろいろな動物の肉からの感染が知られています。

 旋毛虫幼虫筋肉のなかに潜んでいて、この肉がほかの動物に食べられて筋肉が消化されると、幼虫は素早く小腸粘膜の細胞のなかに入り込んで成虫になります。

 成虫が産んだ幼虫は、血液やリンパ液の流れに乗って全身に広がり、筋肉細胞に入り込んだ幼虫が生き続けて、次の動物に食べられるのを待つわけです。

症状の現れ方

 自覚症状のないものから重症のものまでありますが、典型的には、感染した肉を食べて1週間くらいして下痢腹痛が現れ、2日~1週間ほど続きます。

 次に、幼虫が筋肉に入ると筋肉痛発熱発疹、脱力感が起こり、眼のまわりに浮腫(むくみ)が起こります。眼、のど、舌、横隔膜(おうかくまく)肋間(ろっかん)の筋肉がよく侵され、重い感染では呼吸がしにくい、しゃべりにくい、ものを飲み込みにくいなどの自覚症状が出ます。

 心筋が侵されると、心臓のポンプ機能が低下し、死亡の原因になることもあります。

検査と診断

 とくに海外で、普段食べないような動物の肉を生や塩漬け薫製で食べ、下痢、腹痛、発熱や筋肉痛が現れれば、旋毛虫症を疑います。血液検査好酸球(こうさんきゅう)の増加や、筋肉細胞からもれ出た酵素の増加などがわかります。

 最も確実な診断は、筋肉の一部をとって顕微鏡で旋毛虫の幼虫を見つけることですが、抗体検査が非常に有効です。

治療の方法

 虫自体に対しては駆虫薬(くちゅうやく)(メベンダゾール)を内服します。ただし、体中の虫がいっぺんに死ぬと激しいアレルギー反応が起こるので、ステロイド薬を併用します。また、呼吸障害や心不全がある時には、それに応じた治療をします。

病気に気づいたらどうする

 原因になりそうな食品を食べたあと、1~2カ月のうちに症状が出てきたら、設備の整った総合病院を受診して、食歴を話してください。同じものを食べた同行者などがいれば、その人にも受診をすすめてください。

丸山 治彦

出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

家庭医学館 「旋毛虫症」の解説

せんもうちゅうしょう【旋毛虫症 Trichinosis】

[どんな病気か]
 線虫症(せんちゅうしょう)の1つです。幼虫は、全身の骨格筋に侵入し寄生します。
 日本では、クマの肉を生食した猟師の人たちに、集団感染した例がほとんどです。
 欧米では、自家製ソーセージなど、熱処理不十分な豚肉を食べて感染する例が多くみられます。
[症状]
 最初は下痢(げり)、腹痛、発熱などですが、幼虫が横紋筋(おうもんきん)に入るようになると舌筋(ぜつきん)、咬筋(こうきん)、肋間筋(ろっかんきん)、腹筋(ふっきん)などの筋肉痛と眼瞼(がんけん)の浮腫(ふしゅ)(むくみ)がみられます。
 重症の場合には、呼吸困難や心不全(しんふぜん)などがおこります。
[検査と診断]
 初期には糞便(ふんべん)内から成虫や幼虫が検出されますが、その後は筋肉内の幼虫を見つけるのが診断の条件です。血液反応検査も診断に非常に役立ちます。
[治療]
 メベンダゾールかチアベンダゾールを、3~5日間内服します。これらの薬によって、虫体がこわれると、アレルギー症状をおこすことがありますから、副腎皮質(ふくじんひしつ)ホルモンが併用されます。
 生または加熱不十分な熊肉や豚肉を食べないことが予防法です。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「旋毛虫症」の意味・わかりやすい解説

旋毛虫症
せんもうちゅうしょう
trichinosis

寄生線虫類の一種である旋毛虫の寄生による病気で,豚肉の生食によって感染するといわれる。日本では 1974年以来,青森県,三重県などで集団発生している。被嚢幼虫が腸内でかえり,腸粘膜で成虫となる。雌は約 3mm,雄は約 1.5mmで,雌は幼虫を産んでまもなく死ぬ。症状としては,吐き気,下痢程度であるが,幼虫が筋肉内に侵入すると高熱,筋肉痛,浮腫,呼吸困難などが現れるほか,発汗,うわごとなどの精神症状を起すこともある。

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栄養・生化学辞典 「旋毛虫症」の解説

旋毛虫症

 線形動物門双器綱ベンチュウ目センモウチュウ属の寄生虫[Trichinella]が感染して起こす疾患.

出典 朝倉書店栄養・生化学辞典について 情報