改訂新版 世界大百科事典 「時課」の意味・わかりやすい解説
時課 (じか)
liturgy of hours
キリスト教の典礼の一つ。〈時禱 canoni-cal hours〉〈聖務日課divine office〉とも呼ばれてきたが,現代では〈教会の祈り〉といわれる。聖書によれば,旧約時代から朝晩をはじめ,一定の時刻に一日に何回か祈る習慣があり(《詩篇》55:18など),キリストもたびたび祈り(《マルコによる福音書》6:46など),弟子たちも一定の時刻に祈るようになった(《使徒行伝》2:15,3:1,10:9など)。特に旧約時代末期,エルサレムの神殿内にできた会堂で行われた朝晩の《詩篇》による賛美と感謝の祈りは,司教座教会などで毎日行われるようになったキリスト教の朝晩の祈りに受け継がれ,さらに修道生活の日課の中で発展した。その構造は,ヌルシアのベネディクトゥスの会則の理想を具体化し,祈りと労働を交互に組み合わせ,中世修道院の生活様式と密接に結ばれたものであったが,キリスト者の絶え間ない祈りの理想として全教会に勧められるようになった。トリエント公会議後1558年に改訂された《ローマ聖務日課》は,中世修道院の原型をとどめ,これがすべての教役者に義務づけられることになった。第2バチカン公会議後の刷新では,朝晩の祈りを中心に現代人の生活にも可能な限り適応できるよう一新された。
現在のカトリック教会公式の各時課は,初めに賛歌を歌ってから,原則として三つの《詩篇》を唱和する。〈朝の祈り〉には,第二唱和に旧約の歌,〈晩の祈り〉には,第三唱和に新約の歌を《詩篇》に替えて用いる。次に,各時課には短い聖書朗読(神のことば)がある。〈読書〉は,他の時課と異なり,聖書をはじめ教父などの著作を朗読することが中心になっている。朝晩の祈りには,福音の歌として朝は〈ザカリヤの歌〉(Benedictus,《ルカによる福音書》1:68~79),晩は〈マリアの歌〉(Magnificat,《ルカによる福音書》1:46~55),さらに共同祈願,主の祈りが続き,各時課は結びの祈願で終わる。〈寝る前の祈り〉の初めには,一日の反省と回心の祈りがあり,福音の歌には〈シメオンの歌〉(Nunc dimittis,《ルカによる福音書》2:29~32)が用いられ,聖母賛歌で結ばれる(表参照)。カトリック教会以外にも,アングリカン・チャーチの祈禱書prayer bookなどに,トリエント公会議前の《十字架の聖務日課》と呼ばれる時課などの影響が残されている。また,《詩篇》を朝晩の祈りに用い,さらに朝の祈りには〈ザカリヤの歌〉,晩の祈りには〈マリアの歌〉を使うことなどは,東方の諸教会やアングリカン・チャーチをはじめ,プロテスタント諸教会の習慣にも見いだされる。なお,時課の祈禱書の写本には優れた造本のものや,美麗な細密画を施したものなども多い。
→時禱書
執筆者:土屋 吉正
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報