時鳥と兄弟(読み)ほととぎすときょうだい

日本大百科全書(ニッポニカ) 「時鳥と兄弟」の意味・わかりやすい解説

時鳥と兄弟
ほととぎすときょうだい

昔話。鳥の前生が人間であったことを主題にする鳥の由来譚(たん)の一つ。兄弟がいる。弟が山芋(やまいも)をとってくる。兄にはうまい下のほうを食べさせ、自分はまずい上のほうを食べる。疑い深い兄は、弟がうまいところを食べているのではないかと思い、弟ののどを突き切った。山芋のまずいところばかり出てくる。兄は後悔してホトトギスになり、「オトノドツッキッタ」(弟ののどを突き切った)と鳴いている、という話である。弟はモズになり、兄のために虫などを木の枝に挿しておくという伝えが付随している話もある。兄が弟を疑う伏線として、兄は盲目であったとか、異母兄弟であったとか説く例も多い。「継子(ままこ)話」の形をとるものもあり、ホトトギスの托卵(たくらん)性から「継子話」として語られた時期があるかもしれない。端午(たんご)の節供に山薬(さんやく)と称して山芋をとってきて食べる習慣があった地方では、それに結び付けて説いている。類話は中国貴州省のミャオ族にもある。「ペェア」(兄さん)と鳴く鳥の由来で、兄は魚をとってくると、弟には身を与え、自分は頭を食べていたが、弟は兄がうまいほうを食べていると思い、兄を川に突き落とす。頭がまずいことを知った弟は兄を探し求めて鳥になったという。日本にも福島県に魚の例があり、注目される。兄弟の葛藤(かっとう)を主題にした鳥の由来譚はマケドニアアルバニアにもある。

[小島瓔

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改訂新版 世界大百科事典 「時鳥と兄弟」の意味・わかりやすい解説

時鳥と兄弟 (ほととぎすときょうだい)

小鳥前生譚に属する動物昔話。盲目の兄が弟の好意邪推,弟の腹を割いて殺した後,真実を知ってホトトギスに化し“弟恋し”と毎日八千八声鳴くという話。全国的に分布し,おもに兄と弟の悲劇を語るが,親と子,和尚と小僧の話になっている地域もある。鳴声も各地で異なり,〈包丁かけたか〉(岩手),〈弟腹切っちょ〉(東京),〈弟恋し,芋掘って食わそ〉(石川),〈ほーろんかけたか〉(奈良),〈弟いるか〉(長崎)と多様である。これは旧4,5月ころ,昼夜にわたり人里近くで鳴くホトトギスの声に,人々が多大の関心を寄せていたことを示している。ちょうど田植時であることと,ホトトギスがこの世とあの世を往来する霊鳥とみられていたことがその要因である。盲目の兄が弟殺しを懺悔する内容であるところから,この話は盲人が管理し各地に伝播させたといわれている。ホトトギスの前生を語る話は他に〈時鳥と包丁〉〈時鳥と小鍋〉〈時鳥と継母〉〈時鳥と計算〉などがある。
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