日本大百科全書(ニッポニカ) 「最少量の法則」の意味・わかりやすい解説
最少量の法則
さいしょうりょうのほうそく
植物の生育には、必要な元素あるいは養分があるが、植物の生育を支配するのは、その植物の生育に必要な最少量で存在する養分であり、ほかの養分をいかに多く与えても償えないという法則で、最少律ともいう。1843年ドイツのリービヒが無機栄養素について初めて提唱した。たとえば、土壌中に肥料としてリン酸がすこししか与えられないと、窒素やカリウムなどの他の必要養分が十分与えられていても、植物の生産量(収量)はリン酸量で支配され、リン酸を増加させると収量もこれに比例して増加する。やがてリン酸が十分に存在するようになると、次に相対的に少なくなった別の養分が限定因子(生育に必要な養分のうち、もっとも少ない因子)となって生産量の増加が止まるが、この養分を補給するとまた生産量が増えるという結果となる。この法則は単に養分についてだけでなく、植物の生育を左右する他の要因、たとえば光合成速度を規制する光の強さや二酸化炭素濃度などについてもみられることがわかり、イギリスのブラックマンF. F. Blackmanは、この関係を「限定要因説」として提唱した。
この法則は、かならずしも植物の生育にそのまま当てはまらないことが多く、これを補うために、「報酬漸減の法則」がミッチェルリヒE. A. Mitscherlichによって提唱された。これは、ある養分を一定量増やした場合におこる収量の増加は、養分を十分に与えたときに得られる収量と現在の収量との差に比例するという法則で、他の養分が十分にあるとき最少量の養分を増加すると収量も増えるが、直線的に増加するのではなく、最高収量との差が少なくなると増加の割合もしだいに減少し、最高収量に達すると増加が止まることを示す。
[吉田精一]