村松貞次郎(読み)むらまつていじろう

日本大百科全書(ニッポニカ) 「村松貞次郎」の意味・わかりやすい解説

村松貞次郎
むらまつていじろう
(1924―1997)

建築史家。静岡県に生まれる。1948年(昭和23)に東京大学第二工学部建築学科を卒業。同大学院に進み、53年同助手、61年同大学生産技術研究所助教授、74年教授。関野克(まさる)らとともに幕末明治初期の産業建築、洋風住宅の調査を進め、技術史・技術論の研究を行う。『日本建築技術史』(1959)では、れんがなどの新材料の生産、木造建築における洋小屋和小屋の二つの技術の系譜鉄骨鉄筋コンクリートの導入といったトピックを通して、建築における技術の近代化過程に見取り図を与えた。

 56年に建築設計体制の変革旗印として若手建築家・評論家らにより結成された「五期会」で中心的な役割を果たす。1960年代には、同時代の建築動向に対する積極的な発言を展開する。61年から62年にかけては浜口隆一とともに「設計組織を探る」と題したルポルタージュを『新建築』誌に連載。ゼネコン設計部に好意的な評価を与え、否定論が一般的だった当時の建築界に賛否両論を巻き起こした。

 『日本科学技術史大系第17巻 建築技術』(1964)では、技術史研究の成果を基礎としながら、より広く日本近代建築の流れをまとめあげ、第二次世界大戦後の五期会の動向までを記す。雑誌連載をもとに、近代日本の建築家を列伝風に紹介した『日本近代建築史ノート』『日本建築家山脈』(ともに1965)を著し、日本近代建築への関心を高めた。

 70年代に入ると建築技術に対する関心は、同時代の技術から、そのアンチテーゼとしての意味をもつ「大工技術」に移行。その関心のもとに『大工道具歴史』(1973)を著す。75年の『日本近代建築史再考』では編集の中心的役割を果たし、共同執筆者とともに、近代化思想・進歩思想の視点による日本近代建築の評価体系からの脱却を提唱した。

 日本近代建築研究においては日本建築学会に近代建築調査委員会を設け、委員長として日本の近代建築全体のリストづくりに取り組む。若手研究者を動員した全国的な調査は、『日本近代建築総覧』(1980)として刊行された。また、同じ時期には『日本の建築明治・大正・昭和』シリーズ(1979~82)の編集を行った。これらは日本近代建築の基本資料として、その後の研究や保存運動に大きな役割を果たした。

 70年代から和風建築の見直しを始め、80年代には明治以降に建設された近代和風建築の調査を指揮する。『近代和風建築』(共著、1988)はその最初の成果である。90年代に本格化する、土木分野を含む近代化遺産調査に先駆的に取り組む。

 また「大工技術」の研究に始まった大工職人に関する研究をさらに進め、『道具曼陀羅』シリーズ(1976~97)、『鍛冶(かじ)の旅』(1985)、『道具と手仕事』(1997)などを著した。

 85年に東京大学を退官後、95年(平成7)まで法政大学教授を務め、91年からは博物館明治村館長を兼任。現場主義をモットーに数多くの建築調査や保存運動に関わり、自らの研究室にとどまらず多くの後進を育成して、日本近代建築研究の裾野を広げた功績は大きい。83年「日本近代建築の評価に基づく一連の都市計画上の業績」で日本建築学会賞、95年(平成7)「日本近代建築史研究による建築学発展への貢献」で日本建築学会大賞受賞。

[倉方俊輔]

『『日本建築技術史』(1959・地人書院)』『『日本近代建築史ノート――西洋館を建てた人々』(1965・世界書院)』『『日本建築家山脈』(1965・鹿島研究所出版会)』『『日本近代建築史再考――虚構の崩壊』(1977・新建築社)』『『道具曼陀羅』1~3(1976~82・毎日新聞社)』『『鍛冶の旅――わが懐しの鍛冶まんだら』(1985・芸艸堂)』『『道具と手仕事』(1997・岩波書店)』『『大工道具の歴史』(岩波新書)』『日本科学史学会編・村松貞次郎著『日本科学技術史大系第17巻 建築技術』(1964・第一法規出版)』『村松貞次郎編『日本の建築明治・大正・昭和』全10巻(1979~82・三省堂)』『村松貞次郎・近江栄編著『近代和風建築』(1988・鹿島出版会)』『日本建築学会編『日本近代建築総覧――各地に遺る明治大正昭和の建物』(1983・技報堂出版)』

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デジタル版 日本人名大辞典+Plus 「村松貞次郎」の解説

村松貞次郎 むらまつ-ていじろう

1924-1997 昭和後期-平成時代の建築史家。
大正13年6月30日生まれ。昭和49年東大教授となる。のち法大教授,平成3年明治村館長。明治の洋風建築を全国的に調査・研究し,「日本近代建築総覧」としてまとめた。7年建築学会大賞。平成9年8月29日死去。73歳。静岡県出身。東大卒。著作に「日本近代建築の歴史」「大工道具の歴史」など。

出典 講談社デジタル版 日本人名大辞典+Plusについて 情報 | 凡例

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