日本大百科全書(ニッポニカ) 「核スペクトル」の意味・わかりやすい解説
核スペクトル
かくすぺくとる
原子核が吸収または放出するγ線(ガンマせん)のスペクトル。原子核にγ線を照射すると、不連続な値の振動数のスペクトルが吸収されたり、連続的であっても振動数によって異なる吸収のされ方をする。前者を線スペクトル、後者を連続スペクトルという。γ線の吸収は、原子核が安定な基底状態から励起状態に遷移することによりおこる。量子論によると、励起エネルギーEと振動数ν(ニュー)の間にはE=hνの関係がある。低いエネルギー(振動数)領域では線スペクトルのみが現れる。したがって、線スペクトルに対応する励起状態のエネルギー準位は、一つ一つが分離している。また、この種の励起状態は、γ線を放出して、基底および低い励起状態に遷移する。その放出γ線も線スペクトルである。励起エネルギーが高くなると、中性子、陽子、α(アルファ)粒子などの粒子崩壊がおこる。このエネルギー領域になると、γ線の吸収スペクトルは連続スペクトルとなる。この初めの領域では、狭いエネルギー幅のピークを数多くもつスペクトル曲線が現れる。この現象は、寿命の長い共鳴状態が数多く存在することを意味している。さらにエネルギーが高くなると、共鳴状態の間のエネルギー間隔よりも、共鳴のエネルギー幅が大きくなり、共鳴状態は互いに重なり合う。そこでは、滑らかな連続スペクトルが得られる。その吸収スペクトルの分布は、非常に大きなエネルギー幅のピークをもち、巨大共鳴とよばれる。同様な核スペクトルは、γ線吸収以外にも、電子、陽子、α粒子などの粒子との散乱でも現れる。原子核の運動様式は、独立粒子的運動、種々の振動運動、回転運動、分子的運動、および熱的無秩序運動など多様な性格をもっている。軽い核から重い核に至る数多くの核種での核スペクトルは、原子核の多様な運動様式と、その背後の構造についての基本的知識を与えるものである。
[池田清美]