原子核がα粒子すなわちヘリウム原子核を放出して他の原子核に変化する現象。放射線の一つとしてα線があり、α線の正体はヘリウム原子から電子がはぎ取られた、裸の原子核である。これはα粒子とよばれ、陽子2個と中性子2個からなる原子核である。ある親核からα粒子が放出され娘核(じょうかく)ができる崩壊の一例を示すと
(半減期は1590年)となる。これは質量数226のラジウムがα粒子を放出してラドン222に変わることを示している。α粒子は質量数が4、陽子数が2だから、α崩壊で質量数が4、原子番号が2減った原子核に変わる。
α崩壊がおこるのは、親核の結合エネルギーよりも、娘核とα粒子の結合エネルギーの和が大きい場合である。α崩壊がおこる確率は、親核の表面でα粒子が形成される確率と、α粒子と娘核とが分離できる確率の積で与えられる。後者はα粒子と娘核との間にはだかるクーロンポテンシャル障壁を透過する確率である。ポテンシャル障壁の頂上のエネルギーは、放出されるα粒子のエネルギーよりも大きい。この場合、古典力学ではα粒子の透過が禁止されるが、量子力学ではα粒子のもつ波動の性質によって透過する確率は、外部のポテンシャル障壁の大きさに強く依存する。実際、α粒子を放射する自然放射能系列の原子核の半減期は、地球の寿命より長い1010年から非常に短い10-6秒に至る値を示す。
[池田清美]
放射性崩壊の一種で,原子核がα線(α粒子)を放出して崩壊する現象。1個のα粒子の放出によって,原子核は原子番号が2,質量数が4だけ少ない原子核に変化する。ビスマスより重い不安定な原子核の崩壊に多く見られ,とくに自然放射性崩壊系列はいくつかのα崩壊を含む。崩壊の速さは原子核によって異なり非常に広い範囲にわたっているが,崩壊定数λとα線の空気中の飛程Rとの間にはlogeλ=A+B logeR(A,Bは各放射性崩壊系列に固有の定数)という簡単な関係(ガイガー=ヌッタルの法則)がある。α崩壊の理論的説明は,G.ガモフ,E.U.コンドンとR.W.ガーニーによって,残りの核から受けるクーロンポテンシャルのもとでのα粒子の運動を量子力学的に解くことによってなされ(1928),これによればα崩壊は,α粒子がその波動性のためポテンシャル障壁をトンネル効果によって抜け出てくる過程と考えられる。
執筆者:山崎 敏光
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ある核種が,その原子核からα線を放出して,別の核種になる変化.α線はヘリウムの原子核(中性子2個,陽子2個よりなる)なので,α崩壊が起こると,もとの核種は質量数が4減少し,原子番号が2減少した核種に変化する.天然に存在するα崩壊核種の大部分はウラン系列,トリウム系列,アクチニウム系列をつくっている.α崩壊により放出されるα線のエネルギーは,大部分が4 MeV から9 MeV までで,半減期は 10-6 s から 109 y にわたっている.α崩壊の半減期は,原子核の内部にできたα粒子が核のポテンシャル障壁を貫通して核外に出ていく確率によって決定され,質量数が140以上の核種でないとα崩壊は起こらない.最近は加速器と測定法の進歩により,上記系列以外の多数のα崩壊核種が希土類と白金族元素などに見いだされている.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
…α線,β線,γ線が知られているが,その正体はα線がヘリウムの原子核42He,β線は電子,γ線は波長の短い電磁波である。α線放射による崩壊(α崩壊)は,原子核(A,Z)が(A,Z)→(A-4,Z-2)+42Heという過程に対して不安定である場合,すなわちB(A,Z)<B(A-4,Z-2)+B(4,2)の場合に起きる。この崩壊が多くの原子核で見られる理由は,42Heが非常に大きな結合エネルギー(B(4,2)≃28MeV)をもつことによっている。…
…これを放射性崩壊という。崩壊の種類としてはα崩壊,β崩壊,γ崩壊が古くからよく知られている。α線の放出を伴うα崩壊では,原子番号が2,質量数が4だけ減少する。…
※「α崩壊」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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