振動系に周期的な外力を加えると,その運動は振動系に固有の振動数の振動(自由振動)と,外力と同じ振動数の振動(強制振動)とを重ね合わせたものとなる。特徴的なことは,強制振動の振幅が外力と振動系のそれぞれの振動数の2乗の差に逆比例することである。したがって両方の振動数が近い場合には,振動の振幅が非常に大きくなる。この現象は共振と呼ばれ,また,音に関する共振の現象は共鳴として古くから人の注意をひいていたことから共振のことを共鳴ということもある。素粒子の世界にも,これに似た現象が見られる。π⁺中間子と陽子の散乱を例にとると,今ぶつけるπ⁺中間子のエネルギーEを増やしていくと,スピンが3/2の状態の散乱断面積σは,E=E0=1232MeVの近くで極値をとり,E=E0±Γ/2(Γ~115MeV)で極値の半分になってσ∝1/{(E-E0)2+Γ2/4}の形のふるまいを示す。このときE=E0に共鳴幅Γ,スピン3/2の共鳴状態があるといい,この共鳴状態をΔ共鳴(デルタ共鳴)と呼ぶ。例えば陽子と電子がクーロン力で結合している水素原子には,エネルギーの異なる多数の励起状態が存在する。今この水素原子の基底状態に外からγ線をぶつけてやると,励起状態をつくるようなγ線のエネルギーのところで散乱断面積は極大となる。まったく同様にクォークの3体系を考えると,アイソスピン3/2,スピン3/2,核子数1の状態の1232MeVに励起準位が現れる。π⁺中間子を陽子にぶつけたとき,上記のクォーク3体系の励起状態ができ,このためE=E0=1232MeVのとき散乱断面積は極大となる。つまり,2粒子が相互にある時間くっつきあう共鳴状態となり,これはたちまちπ⁺中間子を放出して陽子になる。陽子とこのΔ共鳴はともにバリオン数1,ストレンジネス0であり,あたかも同一の水素原子の異なる状態のような関係にある。原子に多数の励起状態があるように,核子(陽子,中性子)にもΔ共鳴以外の共鳴状態があるかどうかを調べるには,π中間子と核子の散乱,γ線を核子にぶつけてπ中間子と核子を得る反応などにおいて断面積をいろいろなエネルギーで調べ,断面積の山の存在の有無を調べてやればよい。現在までにアイソスピン1/2をもつ共鳴状態は1470MeV,1520MeV,1535MeV,1650MeV,1670MeVなどが,またアイソスピン3/2をもつ共鳴状態としては,Δ共鳴のほかに1650MeV,1670MeV,1690MeVなどが見いだされており,さらにストレンジネス,チャーム,ボトムの自由度を含む共鳴状態をも入れると何百個かの共鳴状態が見いだされている。現在すべてのハドロン(強粒子)はクォークの結合した複合系と考えられ,とくに中間子はクォークと反クォークの結合系,重粒子はクォーク3個の結合系と考えられており,そのうち不安定なものが共鳴状態と呼ばれている。したがってこのような共鳴状態を調べることは,ハドロンがより基本的な粒子クォークから,どのようにできているかというハドロンの構造およびダイナミックスを明らかにしていくうえからも大きな意義をもつということができる。
→素粒子
執筆者:猪木 慶治
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…ストレンジネスが保存される反応は強い相互作用および電磁相互作用であり,逆に保存されない反応は弱い相互作用で長時間かかって崩壊すると考えると,K0やΣ+(いずれもS=+1)がきわめて短い時間でつくられるのに,いったんできてしまうと平均寿命が長い(π,核子はS=0)という奇妙な性質も,うまく説明できるのである。
[ハドロンの共鳴状態]
π+中間子と陽子の散乱現象では,全断面積は入射エネルギーが200MeVあたりを中心に急に増大して鋭い山をつくる。これが3‐3共鳴と呼ばれる最初に見つかった共鳴状態でΔ粒子と呼ばれている。…
…また入射エネルギーを多数の粒子に分配するしかたはたくさんあるから,複合核状態の数は非常に多い。複合核状態の幅Γが隣り合う状態間のエネルギーに比べて小さいとき,その状態を共鳴状態という。複合核を経由する核反応過程は複合核過程と呼ばれ,統計理論で扱われる。…
※「共鳴状態」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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