核戦争後、地球上の温度が大幅に低下する現象をいう。核戦争が起こると、多数の核爆発とそれに伴う大火炎の結果、大量の煤煙(ばいえん)や塵埃(じんあい)が大気圏内に吹き上げられる。これが太陽からの光線を吸収し、地球全体の気象に影響を及ぼし、内陸部の広い地域で長期間にわたって異常な低温状態が続くことが予想される。さらに太陽光線の著しい減少は、植物の光合成にも影響する。太陽光線が回復しても、地球を取り巻くオゾン層が破壊される結果として紫外線が著しく強まることも考えられる。こうした一連の現象の予測が、「核の冬」と名づけられた。この問題は、1982年スウェーデン王立科学アカデミーの環境専門誌『アンビオ』が特集した「核戦争の結末」のなかで気象学者クルッツェンらが最初に指摘した。その後、アメリカの天文学者セーガンらが一連の物理モデルを用いてコンピュータ計算した結果からも、こうした「核の冬」現象が起こりうることが明らかになった。また1983年10月、ワシントンで開かれた「核戦争による長期的、全世界的、生物学的影響」での会議でも、多くの学者がこの理論を認めた。ただし、その規模や程度については、核爆発のおこる条件によって不確定さが大きい。セーガンらは、総計100メガトン程度の核攻撃でも、それが都市や産業目標が攻撃の対象となるなら、核爆発後、2か月以上も氷点下気温が続くこともあるとしている。
[服部 学]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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