翻訳|ozone layer
上空10~50キロの成層圏で、3個の酸素原子からなるオゾン分子が多く存在する大気の層。太陽からの有害な紫外線を吸収する。大気中に放出された人工化合物のフロンが紫外線で分解されると塩素が発生してオゾンを壊す。南極や北極にオゾン層に穴が開いたようになるオゾンホールが見つかって皮膚がんなど健康影響の懸念が高まり、モントリオール議定書によってフロンの製造や使用が規制された。
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上空大気中にあるオゾン量の多い領域。地上高度10ないし15キロメートルより始まり、20~25キロメートルでもっとも数密度(分圧)が高くなる。それ以上の高度では、高さとともに緩やかに密度が減り、高度50キロメートルまで続く。オゾン層の密度や高度分布は、緯度と季節により規則的に変化する。
[小川利紘]
オゾン層は地上生物の生存にとって欠かすことのできない存在である。地球に降り注ぐ太陽の紫外線(紫外光ともいう)を上空で吸収し、地上生物が有害な紫外線を浴びないよう保護しているからである。波長310ナノメートル以下の短波長紫外線は生物細胞の核酸を破壊するが、この紫外線に対して、オゾン層の紫外線吸収効果が有効に働く。しかし、吸収端の波長310ナノメートル付近では、その効果は完璧(かんぺき)ではなく、紫外線は一部地上に降り注ぎ、生物に損害を与える。これに対し生物は種々の防御機能を備えている。この紫外線の人体に及ぼす影響には、損益両面が知られている。皮膚癌(がん)の誘発と皮下でのビタミンD生成がそれである。地球上に漏れ込む太陽紫外線の量は、上空のオゾン量の多少によって敏感に変化する。したがって、オゾン層は地上の紫外線照射量を左右する環境因子として重要である。
[小川利紘]
オゾンは酸素原子3個からなる分子である。大気中で紫外線や放電などの作用により酸素分子が原子状の酸素に壊され、この酸素原子が酸素分子と結合してオゾンになる。オゾン層では、波長240ナノメートル以下の短波長太陽紫外光が、酸素分子を壊す役割をしている。オゾン層は地球大気のように酸素を多量に含む大気に特有のもので、他の惑星には存在しない。
地球大気の酸素は生物の光合成作用によってつくられたものであるから、オゾン層は生物自身がつくりだした太陽紫外線への防壁といえる。地球の歴史において、初期段階では酸素の量は少なく、オゾン層は貧弱で、地表は有害な紫外線にさらされていた。一方水中は紫外線から保護されていたので、そこで生命が発生し、光合成が活発になるにつれて大気中の酸素が増え、しだいに上空のオゾン層が発達した。そして紫外線に対する防止効果が有効に働き出すようになると、陸上が生存に適した環境となり、生命活動の舞台は陸に移り大きな発展を遂げることになった。このようにオゾン層の発達と生命活動との間には、密接な相互関係があったと考えられている。大気中の酸素量がどの程度にまで増えれば、オゾン層の紫外線防止効果が有効になり、陸上生物の生存が許されるようになるのだろうか。理論計算によると、必要なオゾン層をつくるには、現在量の100分の1程度の酸素が大気中に存在すれば十分であるという。このような条件が実現した時期としては、陸上植物が出現した古生代中ごろとするのが妥当であろう。
[小川利紘]
オゾン層は大気構造あるいは気象学上からも重要な存在である。オゾンの吸収する太陽紫外線のエネルギーは、上空大気を加熱して、気温の逆転構造をつくりだす。すなわち成層圏の形成はもっぱらオゾンの加熱効果によるものである。オゾンの大気加熱効果は緯度による差異があるので、この差を解消すべく成層圏大気においても大気の大規模な循環運動がおこる。この大規模循環は下層の対流圏のそれと一体となっており、これによってオゾンは低緯度から高緯度に運ばれる。そのため、オゾン生成のもっとも盛んな太陽直下の低緯度上空よりも、高緯度上空のほうが高密度となる。また成層圏におけるオゾン輸送は春にもっとも活発となるため、季節でみるとオゾン量は春に多く、秋に少ない。大気の大循環は気候を決定する要因の一つであるが、オゾンが大気大循環と互いに影響しあっていることから、オゾン層は気候決定因子として重要である。またオゾンは赤外熱放射を強く吸収、放出するので、大気の熱放射にも影響を与え、この点においても気候決定因子として働く。
[小川利紘]
オゾンは太陽可視光と紫外線によって速やかに分解される。しかし、この際生じた酸素原子はただちにオゾンを再生するので、この過程では正味のオゾン消失はおこらない。オゾンの消失につながる反応は、酸素原子とオゾンとの反応であるが、これは比較的遅い。これに加えて、窒素酸化物、水素酸化物、塩素酸化物、臭素酸化物などとの反応がオゾンを壊す。これらの酸化物はオゾンに比べ微量な気体成分であるが、触媒反応サイクルによって、効率よくオゾンを壊すことができる。太陽紫外線の作用によってつくられたオゾンの生成量は、このようにして消失するオゾンの量と最終的にはつり合いを保っており、その結果、安定したオゾン層が形成されている。
[小川利紘]
種々の汚染気体によってオゾン層のつり合いが乱される可能性が1970年代から問題となった。成層圏を飛行する超音速航空機(SST)の排気中の窒素酸化物、あるいは高空核爆発の際生じる窒素酸化物のように直接成層圏に投入される物質がまず注目された。ついでスプレーや冷凍機などに使われるクロロフルオロカーボン類(CFC、通称フロン)、消火剤として使われる四塩化炭素(テトラクロロメタン)およびハロン、洗浄に使われる1・1・1‐トリクロロエタンなどのように、地上で放出された物質が成層圏に拡散し、塩素酸化物・臭素酸化物に変わる場合が問題とされた。これらの汚染気体が増えると、オゾンのつり合い濃度を下げる作用がある。したがって汚染状態が長期的に続くと、オゾン量が減少し、地上の紫外線照射量が増える。その結果、皮膚癌発生率の増加、作物の収量減、生態系への悪影響などが現れる。また気候への影響も考えられる。
成層圏のオゾンは、大気の大規模な乱れに伴って下層の対流圏に拡散し、オゾンを供給している。オゾン密度の高い気塊が成層圏から対流圏に降下して、一時的に対流圏のオゾン密度を高める事例がしばしばおこる。この影響は地表付近にも及ぶことがあり、大都市から遠く離れた地域で、ときおり高いオキシダント濃度が出現するのは、この影響によるものと考えられる。
[小川利紘]
1980年代になって南極大陸上空にオゾンホールが発見され、その原因が、塩素酸化物・臭素酸化物によるオゾン破壊作用と南極域の特殊な気象条件であることが明らかになり、1985年には国際的にオゾン層を保護するためのウィーン条約が採択された。1987年には、フロン等のオゾン層破壊物質を国際的に規制するモントリオール議定書が採択され、その後数回の改正・調整を経て、フロン等の生産は、先進国では全面禁止、開発途上国でも1・1・1‐トリクロロエタンを除き2009年末で全面禁止となる。またフロンの代替品として使われているハイドロクロロフルオロカーボン類(HCFC)と燻蒸(くんじょう)に使われる臭化メチル(ブロモメタン)も全面的に廃止される予定である。こうした国際規制措置によって、大気中の塩素・臭素総量は2002年現在横ばい状態になっている。しかし、全地球的なオゾン層の長期減少傾向および南極大陸上空のオゾンホールの原状回復はこれからであり、汚染気体とオゾン層の変化は今後も監視を続けていく必要がある。
[小川利紘]
『環境庁オゾン層保護検討会編『オゾン層を守る』(1989・日本放送出版協会)』▽『ジョン・グリビン著、加藤珪訳『オゾン層が消えた』(1989・地人書館)』▽『島崎達夫著『成層圏オゾン』第2版(1989・東京大学出版会)』▽『川平浩二・牧野行雄著『オゾン消失』(1989・読売新聞社)』▽『島崎達夫著『地球の守護神 成層圏オゾン――なぜ減る? 減るとどうなる?』(1989・講談社)』▽『岩坂泰信著『オゾンホール――南極から眺めた地球の大気環境』(1990・裳華房)』▽『小川利紘著『大気の物理化学――新しい大気環境科学入門』(1991・東京堂出版)』▽『通商産業省基礎産業局編『改正オゾン層保護法』(1991・ぎょうせい)』▽『通商産業省基礎産業局オゾン層保護対策室監修『オゾン層保護ハンドブック』(1994・化学工業日報社)』▽『環境庁地球環境部監修『オゾン層破壊――紫外線による健康影響、植物・生態系への影響』(1995・中央法規出版)』▽『杉光英俊著『オゾンの基礎と応用』(1996・光琳)』▽『松本泰子著『南極のオゾンホールはいつ消えるのか――オゾン層保護とモントリオール議定書』(1997・実教出版)』▽『泉邦彦著『地球温暖化とオゾン層破壊』(1997・新日本出版社)』▽『リチャード・E・ベネディック著、小田切力訳『環境外交の攻防――オゾン層保護条約の誕生と展開』(1999・工業調査会)』▽『関口理郎著『成層圏オゾンが生物を守る』(2001・成山堂書店)』
上空大気中でオゾン量の多い領域。1880年から82年にかけてシャピュイM.J.Chappuis(フランス)とハートリーW.N.Hartley(アイルランド)により独立に発見された。地上高度20kmないし25kmを中心に,厚さ約20kmにわたり分布する。中心付近の密度はおよそ5×1012分子・cm⁻3で,鉛直気柱内の全量は平均8×1018分子・cm⁻2(0℃,1気圧において0.3cmの厚みに相当)である。オゾンは波長200~300nmの紫外線を強く吸収するので,生物細胞中の核酸を壊してしまう太陽紫外線放射が地上に侵入するのを防いでくれる。それゆえに,オゾン層は地上生物の生存にとって不可欠の存在である。
オゾン層の紫外線遮へい効果は300nm付近から長波長側では不完全となり,太陽紫外線(波長域305±10nm)がわずかに地上に漏れ出してくる。この紫外線はUV-Bとも呼ばれ,生物機能に損害を与えるが,これに対して地上生物は進化の過程で種々な防御機能を獲得している。UV-Bの地上照射量はオゾン量の変動に敏感であるから(変化率にして約2倍の増幅度がある),オゾン量の長期変動は地上生物にとって重要な環境因子である。
大気中のオゾンO3は酸素原子Oが酸素分子O2と結びついてできる。オゾン層内においては,この酸素原子は太陽紫外線(波長242nm以下のエネルギーの高い部分)の解離作用によって,大気の主成分である酸素分子から作られる。地球大気の酸素分子は光合成を行う生物によってもたらされたものであるから,オゾン層は生物自身が作り出したものだといえる。地球の歴史を通じてオゾン層の消長は生物進化と相互に影響しあっている。オゾン層が貧弱で紫外線遮へい効果の弱かった初期段階では,生物は水中でのみ生存可能であった。水中で光合成を行う生物が現れ,大気中の酸素分子濃度をしだいに増やしていった。こうして古生代の中ごろ(約4億年前)には,大気中の酸素濃度は現在の1/100程度になった結果,現在と同程度の紫外線遮へい効果をもつオゾン層ができあがり,陸上に生物がすめるようになったものと推測されている。こうしたことから,オゾン層は他の惑星にはない,地球大気に特有の存在であることが理解できる。
オゾンは太陽紫外線により速やかに分解されるが,この際生じた酸素原子がオゾンを再生するので,この分解過程では正味のオゾン消失はない。オゾンの消失につながる反応としては,オゾンと酸素原子との反応がある。これに加えて,大気中に微量に存在する水素酸化物,窒素酸化物,塩素酸化物などの気体が触媒反応サイクルを形成しており,これによって効率よくオゾンを壊す。オゾンの生成反応は,最終的にはこれらの消失反応と釣合いを保ち,安定なオゾン層が保持されている。しかし近年,超音速航空機の排出する窒素酸化物,スプレー缶や冷凍機などに使われ大気中に棄却されたクロロフルオロメタンなどの塩化炭素(別称フロン)などがオゾンの消失反応を高め,その結果オゾン層が侵食されるのではないかと懸念されている。オゾン量のレベルが長期的に低下した場合,UV-B地上照射量の増加により皮膚癌の発生率を高める。また作物収量減などに加えて生態系に種々な影響を与えるものと予測されている。
オゾン層は日により季節により変化する。この変化の仕方は地球上の場所によって異なっており,とりわけ緯度・季節変化に際だった特徴がある。太陽直下の低緯度上空でたくさん作られたオゾンは,空気の動きにより高緯度上空へ運ばれる。このためオゾン量は高緯度の方が低緯度よりも多く,また季節では春に極大,秋に極小となる。こうした変動は大気の大規模な運動に原因がある。一方,オゾン層の吸収する太陽紫外線のエネルギーは,大気を暖める熱源として,成層圏形成の主要因となっているが,同時に大気の大規模運動もひき起こすので,オゾン層は上空における大気の運動と密接な関係にある。大気の大規模な運動は地球全体の気候と深いつながりがある。またオゾンは赤外線を強く吸収・放出するので大気の熱放射にも影響を与える。これらの点からオゾン層は気候を左右する因子として重要である。
執筆者:小川 利紘
1985年採択された〈オゾン層保護のためのウィーン条約〉および87年採択の〈オゾン層を破壊する物質に関するモントリオール議定書〉にもとづき,数回にわたる議定書締約国会議を経て,フロンやハロンなどの規制が強化されている。日本では1988年3月,〈ウィーン条約〉と〈モントリオール議定書〉の国内実施法として〈特定物質の規制等によるオゾン層の保護に関する法〉(略称,オゾン層保護法)が制定された。
執筆者:編集部
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地球大気に入射する太陽の紫外線は,その強い作用により酸素分子 O2 をオゾン O3 にかえる.このオゾン濃度が比較的高い成層圏(地上10~50 km)下部の層をいう.オゾン濃度は上空20 km 付近において最大で,この高度でのオゾン濃度は最大5×1012 molecule cm-3,同高度での空気の密度は1.7×1018 molecule cm-3 であり,その濃度は約3 ppm 程度である.太陽光線中の生物に有害な短波長紫外線(200~300 nm)を吸収して,地上に到達することを防いでいる.近年,スプレー噴射剤や洗浄剤,冷媒として使用されたクロロフルオロカーボンなどが成層圏に達して,紫外線との反応により塩素原子を発生し,オゾン層を破壊することが問題となっている.オゾン濃度の希薄部分をオゾンホールとよび,オゾン層破壊の進行により,地上での紫外線量が増加し,北欧,オーストラリアなど高緯度地域を中心に,皮膚がんや白内障の増加が報告されている.同時に,植物やプランクトンなどの生態系や気候などへの影響も懸念されている.こうしたことから,オゾン層を保護するための国際的な取り組みとして,1985年にオゾン層保護のためのウィーン条約が,1987年にオゾン層を破壊する物質に関するモントリオール議定書が採択されている.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
…大気中では,酸素に紫外線があたると光化学反応を起こして生成する。濃度が比較的高いところは,地上約20~25kmの高度に,厚さ約20kmにわたって分布し,オゾン層と呼ばれている。紫外線に富む高山,森林,海岸などの空気中にも存在するが,塵埃(じんあい)などで分解されやすく,地表付近の濃度はきわめて低い。…
※「オゾン層」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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