夫婦と未婚の子だけからなる家族。アメリカの人類学者マードックの用語から生まれた。日常的には「核家族化」などの用法で知られているが、マードック自身はまったく別の角度から「核家族普遍説」を唱えて学界の注目をひいた。まず後者についてであるが、彼は、250の人間社会を比較検討し、核家族がそれ自体として存在することはもちろん、一夫多妻などの複婚家族、親夫婦・子夫婦同居などの拡大家族も、いわば分子としての核家族の集合体であり、その意味で核家族が、地域、時代を超えた普遍的な家族の構成要素であると主張した。今日では、こうした主張が妥当しないことが多様な家族形態の存在から実証されてきている。特定の家族形態を普遍的とすることで、その他の形態を逸脱とみなしてしまう危険性もある。
これとは別に、先に述べた社会現象としての核家族化が今日の社会問題となっている。晩婚化や非婚化による未婚単身生活者の増大や高齢者のひとり暮らし、あるいは高齢の夫婦のみの世帯の増大、さらに離婚の増大などによる父子家庭や母子家庭の増大、加えて共働き夫婦や無子夫婦の増大など、今日では核家族形態の家族が標準的家族といえないほど多様化してきている。それだけに子育てや高齢者介護など、かつては家族の責任で果たされてきた事柄が、今日では社会や地域の重要な福祉問題になっている。
[増田光吉・野々山久也]
『G・P・マードック著、内藤莞爾監訳『社会構造』(1978・新泉社)』▽『匠雅音著『核家族から単家族へ』(1997・丸善)』
夫婦とその未婚の子からなる家族。nuclear family(核家族)という語は,アメリカの文化人類学者G.P.マードックがその著書《社会構造論》(1949)で初めて用いた。彼は未開社会の家族の研究結果から,社会集団の基礎単位として普遍的に存在している〈核家族〉に注目した。この核家族は単独,あるいは二つ以上の複合した形で存在しており,複合形態は,(1)複数により共有される夫あるいは妻を介して横に結合した複婚家族と,(2)親の核家族と既婚子の核家族が縦に結合した拡大家族とに区別されるとした。この概念は日本にも紹介され,当初,核心家族,中核家族,核的家族などと訳されていたが,1959年に〈核家族〉に統一された。今日,家族形態の変動をとらえる標識の一つとして核家族率がある。この比率は核家族世帯数の親族世帯総数に対する比として算出される。国勢調査によって日本の場合をみると,1920年58.8%,60年63.5%,70年71.5%,80年75.4%と高まってきていることがわかるが,今後は高齢化社会が進むにしたがって核家族率は低下するものと思われる。なお,〈核家族〉は現代の家族の分析概念として定着しているが,核家族が人類社会に普遍的に存在しているとするマードックの説には,今日さまざまな批判が出されている。
→家族
執筆者:森岡 清美
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…【伊谷 純一郎】
【人間の家族】
近親関係を中心に構成される最小の居住集団を〈家族〉とか〈世帯〉とかよんでいる。このような最小居住集団はかつては〈個別家族individual family〉〈基本家族elementary family〉などと名づけられていたが,最近では,G.P.マードックの提唱した〈核家族nuclear family〉の名称がひろく用いられている。ここではまず学問上,家族がどのように問題にされてきたかを概観し,以下では日本の場合を中心として家族観の変遷を述べ,さらに〈現代の家族〉について議論することとする。…
…したがって〈公的な職業労働は尊く,私的な家事労働は卑しい〉とする発想も,その裏返しの〈賃労働は疎外されているが,純粋に家族に尽くす家事労働は疎外されない〉とする発想も,実は同一の歴史的枠組みに根ざすものであり,そのような認識枠組み自体が乗り越えられなければならないのである。 第2に,家族の小規模化と核家族化による,家事の社会的孤立化が挙げられよう。出生率の全般的低下と,若い世代の都市への人口移動,および〈家〉意識の変容などにより,一般的な家族形態は,複雑な大家族から小人数の核家族へと変化してきた。…
…【伊谷 純一郎】
【人間の家族】
近親関係を中心に構成される最小の居住集団を〈家族〉とか〈世帯〉とかよんでいる。このような最小居住集団はかつては〈個別家族individual family〉〈基本家族elementary family〉などと名づけられていたが,最近では,G.P.マードックの提唱した〈核家族nuclear family〉の名称がひろく用いられている。ここではまず学問上,家族がどのように問題にされてきたかを概観し,以下では日本の場合を中心として家族観の変遷を述べ,さらに〈現代の家族〉について議論することとする。…
… 以上のような歴史的変化の基礎には,家族と社会ないし共同体との関係の変化に基づく家族そのものの変化がある。共同体の崩壊とともに共同体から析出された小家族は,僕婢を排除し徐々に子ども数も少なくしていわゆる核家族への過程をたどるのであるが,その際,かつて主機能であった生産機能を放棄し心理的・情緒的世界となる。そこでは,職住分離が現実かつ理念であり,〈愛の巣〉たる住の世界を汚れた外の世界から隔離して管理することが母親の職分となるのである。…
…
[〈親族法〉の問題点]
民法725条の親族の範囲の規定は現代の家族生活の実情にも合わず,法律上の必要性もないというのが学説上の一般的見解である。理由としては,(1)現代の家族生活は夫婦と子どもで構成される核家族が単位となり,実態としてはこれに老親を加えた小規模の家庭が多い。今日この規定が想定するような大規模な親族集団は現実にはほとんど存在しないし,集団としての役割・機能も果たしてもいない。…
※「核家族」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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