夫と妻の両者が収入を伴う仕事に従事すること。共働きは第二次世界大戦前から1960年(昭和35)ころまでは、農業や小売業など自営業が多い産業では一般的であった。しかし産業構造の変化とともに、就業者の大多数が雇用者として働く「雇用社会」になることで、「共働き」(dual-earner couple)は、カップルのそれぞれが収入を伴う仕事に従事するだけでなく、雇用者として就業している場合をさすことが多くなった。
ただし、「雇用社会」となっても、夫が雇用者として就業し、妻が無業で家事・育児を担うという「片働き」世帯が主だった時代が1980年代まで続いていた。高度経済成長期には、安定した収入のある夫を支え、家事・育児に専念するいわゆる「専業主婦」を望ましい生き方と考える女性が多かったことが、この背景にあった。
その後、結婚して家事や育児に専念するのではなく、家庭と仕事を両立させることが望ましいとする考え方が男女ともに増加し、「片働き」カップルが減少していくことになる。1990年代前半になると「共働き」世帯が「片働き」世帯を上回り、その後も「共働き」が増加していくことになる。総務省の「労働力調査(詳細集計)」によると、夫婦ともに非農林業雇用者で妻が64歳以下の世帯を取り上げると、2023年(令和5)では「片働き」が404万世帯であるのに対して、「共働き」は1206万世帯と「片働き」を大きく上回っている。
このように「共働き」世帯が多数を占める時代になったものの、「共働き」の中身をみると、夫婦ともにフルタイム勤務の雇用者世帯よりも、夫がフルタイム勤務で、妻がパートタイムなどの短時間勤務の世帯が多く、妻は家計補助的な働き方をしているという傾向にある。そのため夫の扶養内で働くことを目的に、収入や労働時間を調整するいわゆる「就業調整」を行う者も少なくない。2023年では、「共働き」1206万世帯のうち、妻がフルタイム雇用(週35時間以上就業)は524万世帯で、他方、妻がパートタイム雇用(週35時間未満就業)は682万世帯とそれを上回る状況にある。妻がフルタイム雇用の「共働き」世帯は、1990年代なかば以降、400万世帯から500万世帯の間で推移していたが、2020年以降、漸増傾向をみせ520万世帯を超えている。
夫と妻の両者がフルタイム勤務の世帯が大きく増えていない背景には、夫が長時間労働でかつ家事・育児への参加が期待できないため、仕事と家事・育児を両立させることを考えると、妻はフルタイム勤務がむずかしいという状況がある。今後は、30歳代以下の世代を中心にして、フルタイム勤務だけでなく、それぞれが各自のキャリアの実現を大事にするカップル、いわゆる「デュアル・キャリア・カップル」(dual-career couple)が増加していく可能性が指摘されている。
[佐藤博樹 2024年8月16日]
『NHK放送文化研究所編NHK放送文化研究所編『現代日本人の意識構造』第9版(2020・NHK出版)』▽『内閣府男女共同参画局編『男女共同参画白書 各年版』(勝美印刷)』
既婚女性が家事・育児以外になんらかの社会的生産の場で働くこと。これは歴史的にみれば,今日考えられているほど特別なことではなく,ごくあたりまえのことであった。日本の女は伝統的に農婦や漁婦として働いてきたし,世界的にみても,共働きが社会の常識的前提となっている文化圏がある。その意味では,共働きは女性の普遍的な存在様式であって,じつは専業主婦のほうが,高度成長期以降広く一般庶民に定着した特殊な存在様式なのである。現代の共働きの特徴は,(1)被雇用労働者としての就労の増大であり,(2)生きがい追求意欲に動機づけられた共働きの増大である。その背景としては,(1)一人の女性が一生の間に産む子どもの数が減って育児に拘束される期間が短縮し,また平均寿命が延びたため,人生の中期に長期間の可働年月が出現するようになったこと,(2)女性の経済的・社会的自立志向の高まりとともに,女性の専門職領域(教員,看護婦など)が徐々に確立されてきたこと,(3)家事,育児サービスの商品化が進んだこと,等が挙げられよう。共働きは,職場で社会的意識を身につける可能性や夫婦間の対等化の可能性という意味で,有意義であるが,実際に共働きを継続するうえで出会う困難は非常に多い。
→主婦 →女性労働
執筆者:船橋 恵子
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