森林所有者が組織する団体。森林組合は世界的にみて二つの型があるといわれている。一つは、森林の荒廃防止や木材の計画的生産などを目的として、森林所有者の強制加入によって成り立つ森林組合で、19世紀後半に設立されたドイツの組織がこれにあたる。他の一つは、林産物の共同販売、資材の共同購入などを目的とし、任意加入による協同組合的な森林組合で、スウェーデン、ノルウェーなどに存在する組合が該当する。
日本の森林組合は、ドイツを範とし、1907年(明治40)の森林法の改正で初めて制度化されたもので、施業、造林、土工、保護の4種類の組合が設けられた。しかし、森林所有者の組合設立意欲は小さく、設立されたのは土工組合が大半で、日本林業に与える影響は大きくなかった。戦時体制に入った1939年(昭和14)の森林法改正では、4種の区別をなくし、1市町村1組合を原則とする強制設立・強制加入の森林組合に改変し、木材の生産・販売などの経済事業のほか、民有林行政の末端を担う事業も行うようになった。さらに第二次世界大戦の戦時体制進展とともに、強制伐採による軍需用材供給組織としての役割も担わされた。
第二次世界大戦後、連合国最高司令官総司令部(GHQ)の団体民主化の方針により、1951年(昭和26)に森林法が全面的に改正され、森林組合はそれまでの強制加入制から、任意加入制の協同組合として新発足することになった。そして、1964年の林業基本法制定後、林業構造の近代化政策の下、小規模な森林所有者にかわって民有林の森林施業を実行する協業組織として育成された。1978年には森林法内の規定から、森林組合法が制定され、森林組合は、独立した法律に基づいて運営される組織となり、その事業範囲が拡大された。
[飯田 繁・佐藤宣子]
森林組合法(昭和53年法律第36号)は、森林組合の目的を「森林所有者の協同組織の発達を促進することにより、森林所有者の経済的社会的地位の向上並びに森林の保続培養及び森林生産力の増進を図り、もつて国民経済の発展に資する」としており、その目的達成のために森林組合、生産森林組合の2種の組合と、系統組織である森林組合連合会を設けることを規定している。
このうち森林組合がもっとも重要な役割を担っており、通常、森林組合といえばこの組合のことをさす。2010年(平成22)の時点で、691組合、組合員数約158万人、組合員森林所有面積約1108万ヘクタールであり、都道府県有林を除く民有林面積の68%を占めている。組合のおもな事業は、(1)植林、手入れ、(2)木材の伐採、加工、販売、(3)林業資材の共同購入、(4)融資などの窓口業務、(5)組合員の経営指導、(6)その他(緑化木生産、不在村所有対策など)である。組合経営は約1万7000人の役員と7000人の職員によって担われ、その他に植林や手入れ、伐採を行う2万5000人の林業作業員を雇用している。
一方、生産森林組合は、入会(いりあい)林野の権利関係を消滅させ、新しい利用を促進させるための法律(入会林野等に係る権利関係の近代化の助長に関する法律、昭和41年法律第126号)に基づいてつくられたものがもっとも多く、約8割を占める。2010年(平成22)の時点で、3224組合で組合員数は約30万人、経営面積は約35万ヘクタールである。
森林組合連合会は、大阪府を除く46の都道府県森林組合連合会、それらと大阪府森林組合を会員とする全国森林組合連合会が存在する。連合会は、販売、購買、金融、森林保険などの仕事を行うほか、森林組合の経営指導を行っている。
[飯田 繁・佐藤宣子]
森林組合は第二次世界大戦後、林業生産の担い手として育成・支援されてきたが、事業展開に必要な人材や資金の不足が問題とされた。1962年(昭和37)に森林組合合併助成法が制定され、組合数は1962年3541組合、1990年(平成2)1620組合、2010年(平成22)691組合へと減少し、市町村や流域範囲を超える広域合併の組合も誕生している。しかし、広域合併は組合経営を優先させることになることが懸念されている。木材価格の長期的な低迷の下で、小規模・零細規模の組合員の多くは林業への関心を低下させ、山村地域は過疎・高齢化し、不在村所有の組合員が増加している。森林組合の一部は利益を確保しうる公共事業を優先させ、員外利用の比率を高め、組合員との関係が希薄化している点が問題視されるようになった。また、組合経営による製材等の木材加工工場の経営不振や民間事業体への圧迫なども指摘されるようになった。
そうしたなかで、2009年の森林・林業再生プランでは、森林組合の最優先の事業は小規模零細な私有林所有者に対して施業を提案し、地域的な施業団地を形成して、路網整備と間伐の共同実施による施業の低コスト化を図り組合員への利益還元を行うという、「提案型集約化施業」を推進することとされた。そのために、同再生プランは森林組合の職員を森林施業プランナーとして養成することや、行政には森林組合と民間林業事業体との競争条件を等しくする必要があると指摘した。
全国森林組合連合会は、再生プランの具体化を受けて2011年に「国産材の利用拡大と森林・林業・再生運動」を全国的に展開している。
[佐藤宣子]
『志賀和人著『民有林の生産構造と森林組合』(1995・日本林業調査会)』▽『堀靖人著『山村の保続と森林・林業』(2000・九州大学出版会)』▽『志賀和人・成田雅美編著『現代日本の森林管理問題』(2000・全国森林組合連合会)』▽『遠藤日雄編著『現代森林政策学』(2008・日本林業調査会)』▽『林野庁編『森林・林業白書』各年版(農林統計協会)』
1907年森林法改正のときに制度化された森林所有者の団体。森林法は1897年にはじめて制定されたが,それは二つの柱から成り立っていた。一つは営林監督制度,第2は保安林制度であった。営林監督制度は林業の生産活動に対し国が監督し,荒廃を防ぎながら生産を行う基準を与えたもの,保安林制度(保安林)は営林監督制度の補完的措置として土砂の流出や土砂崩れを防止したり,風や砂を防いだりする特定の森林を保護するために設けられたものである。この二つの制度をより確かにするためには,森林所有者自身がみずからの力で行っていかねばならないとの趣旨から所有者の団体設立を1907年の改正森林法で定めることとなった。このとき4種の組合が設けられた(造林,施業,土工,保護の各森林組合)。その目的は主として入会林野の造林と天然林の開発で,近世の村持山を単位として設立されたものが多かった。39年には市町村の行政区画単位に拡大され(一市町村一森林組合),4種の区別もなくなるとともに,その事業内容も木材の生産,販売の経済事業のほか行政の末端を担う事業も行うようになった。すなわち,折からの戦時経済のなかにあって,木材の供出,生産,流通統制行為に参加したのである。
第2次大戦後は51年の森林法改正により,森林組合はそれまでの強制加入制度をやめて任意加入制の協同組合として再編されることになったが,この背景には当時のGHQの意向である〈民主化,非軍事化〉の方針が強く働いていた。1950年にGHQから勧告された〈森林組合改組に関するステートメント〉は,(1)林業計画は中央政府の責任であること,(2)市場に出すための私有林の用材,薪炭の保有,収穫,加工の営業行為は個人の責任であること,(3)営業行為は自由加入の協同組合主義に基づいて組織される民有林所有者の団体あるいは民有林所有者個人によって行われなければならない,などの6項目にわたる具体的措置を指示し,この方向にそって森林組合も再編された。
78年に森林組合法が制定され,いままでの森林法のなかにあった森林組合はあらためて協同組合として,法律上は独立した。同法はその目的を〈森林所有者の協同組織の発達を促進することにより,森林所有者の経済的・社会的地位の向上と森林の保続培養および森林生産力の増進をはかり,国民経済の発展に資する〉ことにおいている。協同組合としての活動には森林のもつ環境保全の働きを十分に発揮させることも含まれる。また独立法となったとはいえ,1907年の森林法改正以来,営林監督,保安林制度と一体であるという森林組合がもつ林政上の位置には変りはない。森林組合には,(1)組合員の森林経営に関する指導,(2)組合員の委託をうけて行う森林の施業または経営,(3)組合員の所有する森林の経営を目的とする信託の引受け,などを行う施設森林組合(1504組合,1994年現在)と,みずから森林の経営を行う生産森林組合(3476組合,同)がある。前者の森林組合員の所有森林面積は1140万ha(全私有林の81%,1994年現在)に及ぶ。
執筆者:筒井 迪夫
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