協同組合主義(読み)きょうどうくみあいしゅぎ

日本大百科全書(ニッポニカ) 「協同組合主義」の意味・わかりやすい解説

協同組合主義
きょうどうくみあいしゅぎ

協同組合を人間生活のあらゆる分野に広めることによって資本主義矛盾止揚し、各人の自助と協同で貧窮と恐怖のない社会を築くことを理想とする思想。19世紀初めのイギリスにおいては産業革命進展とともに、労働者階級の生活は向上するどころか、ますます困窮化し、その悲惨な状態は良心のある人々の心を痛めるものであった。マルクスによって空想的社会主義者の一人にあげられたロバート・オーエンは、1821年『貧窮原因論』An explanation of the cause of the distressを発表し、そのなかで、社会の正当な目的は、人間の肉体的、道徳的、知的な性格の改善を、欲望充足を最大にするような方法でもたらすことであると主張し、現在の社会が、この目的に反して貧乏な人が多いのは、利潤追求の競争制度が存在するからであると断じて、労働者階級は協同組合制度をつくってこれに対抗すべきであると提言した。労働者階級は各自で平等の権利をもって互いに責任ある態度で力をあわせるならば、自助は可能であるという、このオーエンの協同組合思想は、1844年イギリスのランカシャーに設立された有名なロッチデール公正開拓者組合Rochdale Society of Equitable Pioneersにおいて実行に移された。それは、労働者階級の窮乏につけこむ小売商人の搾取を防ぎ、将来、失業した場合でも働く場所を自分たちでつくろうという理想をもつ28名の貧しい労働者が苦心して資金を集めてつくった日用品購入事業であった。この消費組合は、その後、協同組合運動の模範となり、フランス、ドイツその他の資本主義諸国における協同組合運動に影響を与えた。

 協同組合主義は、資本主義の矛盾を資本主義体制そのものを克服することによって解決を図ろうとするものではなく、資本主義体制を是認し、その枠内で、資本主義経済の矛盾が顕著に現れる生活領域においてその矛盾の被害を被っている人々が協同してそれに対抗し、自衛を図ろうとする協同活動であるために、消費部門のみならず、生産部門やその他の生活領域でも、それぞれの資本主義国の不均等発展によるその矛盾の現れ方の違いによって、生産組合や信用組合など多種多様な形態の協同組合がつくられ、資本主義の矛盾からの自己防衛の努力がなされるのは自然の成り行きであった。

 19世紀中葉、資本主義の後進国ドイツでは工業化によって没落を余儀なくされた手工業者や農民などの小独立生産者の間に協同組合運動が広がった。シュルツェ・デーリッチュが設立した指物師のための原料購入組合は手工業者の生産組合の模範となったし、ライファイゼンが農民に貯蓄の奨励と資本の供給を目的として設立した信用組合は農村信用組合の先駆となった。1860年代初めにようやく台頭し始めたドイツの社会主義労働運動もこうした協同組合主義の強い影響を受けた。ドイツ社会民主党の前身の一つである「全ドイツ労働者協会」の創立者ラッサールの社会主義思想は協同組合主義の一種であった。マルクスによって空想的社会主義者と批判されたフランスのフーリエ、ルイ・ブラン、プルードンなどは、ラッサールより前にすでに19世紀の初めに生産組合による社会主義の実現を主張しており、マルクス主義者によって、協同組合主義は階級闘争を行わずに資本主義の矛盾を止揚できるという幻想を与える社会改良主義の一種であると批判されている。ともあれ、第二次世界大戦後、西欧先進諸国では高度経済成長のしわ寄せが公害や環境破壊となって市民生活を脅かすにつれて、生活防衛のための協同活動として、無公害食品購入生活協同組合など、協同組合主義による生活の質を守り、その向上を図ろうとする市民運動が高まり、それは各国の地方自治体行政に、少なからぬ影響力を及ぼしつつあることは注目されよう。

[安 世舟]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「協同組合主義」の意味・わかりやすい解説

協同組合主義
きょうどうくみあいしゅぎ

各自が資金を拠出し,それによって協同組合を結成し,各組合員の生活の向上を目指し,ひいては生産や分配上の正義が達成される共同社会の実現を企図する思想や運動をいう。イギリスでは R.オーウェンの思想にその嚆矢を見出す。商人などのいわゆる中間搾取の廃絶によって,生産者と消費者とを直結し,それによって大資本に対抗して小生産者や消費者を防衛しようとするものである。

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