森瑤子(読み)もりようこ

日本大百科全書(ニッポニカ) 「森瑤子」の意味・わかりやすい解説

森瑤子
もりようこ
(1940―1993)

小説家。静岡県伊東市生まれ。本名伊藤雅代、結婚後雅代・ブラッキン。父の仕事の関係で1歳から4歳まで中国の張家口(ちょうかこう/チャンチヤコウ)で暮らし、第二次世界大戦終戦直前に日本に戻る。6歳より父のすすめでバイオリンを学び、1959年(昭和34)東京芸術大学音楽学部器楽科入学。在学中に、サガンサルトルカミュなどのフランス文学に傾倒し、バイオリンへの興味を失っていく。大学を卒業した63年、バイオリンを捨て、広告代理店に勤務。この年、日本を旅していた英国人と出会い、電撃的に婚約。翌64年に結婚、夫婦共働きを続けていたが、67年長女誕生を機に広告代理店を退社し、フリーのコピーライターに。その後、三浦半島突端にある諸磯(もろいそ)に「風の家」(ウィンド・ハウス)と名付けた家を借り、専業主婦となり育児に専念する。71年に次女、72年に三女が誕生。73年に長女の小学校入学のため東京に戻り、六本木で暮らす。子育てと主婦業だけの生活に疲れ、閉塞感にさいなまされ出口を模索していた矢先画家池田満寿夫が『エーゲ海捧ぐ』(1977)で芥川賞受賞したことに触発され、小説を書き始める。

 78年、処女作『情事』ですばる文学賞受賞。人妻と外国人男性との大胆な性愛シーン、外国人の集まる六本木のカフェバー、軽井沢の別荘でのホームパーティといった華やかな舞台設定がマスコミの話題となる。79年『誘惑』が第82回芥川賞候補、81年刊行の『傷』で第87回芥川賞候補、83年には『熱い風』で第88回直木賞候補、『風物語』で第89回直木賞候補と注目作を次々と発表。都会に生きる成熟した男女の性愛や恋愛の機微を、洒脱な乾いた文体で描き出す筆力に加え、貿易商を営むイギリス人の夫と3人の娘と共に六本木に住み、休日には軽井沢や伊豆の別荘で過ごす生活スタイルや作家本人の華やかなファッションが相まって女性たちのカリスマ的存在になる。女性の生き方、お酒やファッションなど独特の美意識に裏打ちされたエッセイの評価も高い。

 80年代中頃には、自分の責任において行動し、何があっても決して他人のせいにしない潔く自立した女性たちを「ハンサム・ガール」「ハンサム・ウーマン」と呼び、流行語となる。短編小説の名作も数多く、香港のペニンシュラ、シンガポールのラッフルズ、ロンドンのサボイなど世界の一流ホテルを舞台に繰り広げられる男と女のラブアフェアを描いた『ホテル・ストーリー』(1981)、『ベッドのおとぎばなし』(1986)、愛の裏に隠された嫉妬と自尊心を鋭く描く『男三昧 女三昧』(1987)などにフランス文学に親しんだ森瑤子らしいストーリーテラーぶりを発揮、読者を魅了する。翻訳にも熱意を燃やし、92年(平成4)、『風と共に去りぬ』の続編『スカーレット』(アレグザンドラ・リプリAlexandra Ripley(1934― )著) の翻訳書を刊行。93年、胃癌を宣告されるも死の直前まで連載原稿の執筆を続ける。7月6日、永眠。享年、52歳。同年5月~翌94年にかけて初めての自選集『森瑤子自選集』(全9巻)が刊行されている。文壇デビューして15年の間に、およそ100冊の著書を刊行。疾風のごとく駆け抜けた一生だった。

[関口苑生]

『『誘惑』(1980・集英社)』『『森瑤子自選集』(1993~94・集英社)』『『森瑤子 ハンサム・ウーマンに乾杯』(2002・角川春樹事務所)』『『情事』『傷』『熱い風』『男三昧 女三昧』(集英社文庫)』『『風物語』『ホテル・ストーリー』(角川文庫)』『『ベッドのおとぎばなし』(文春文庫)』『河野多恵子・大庭みな子・佐藤愛子・津村節子監修『女性作家シリーズ18 夏樹静子・森瑤子・皆川博子』(1998・角川書店)』『アレグザンドラ・リプリ著、森瑤子訳『スカーレット』(新潮文庫)』

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