小説家。東京生まれ。津田塾大学卒業。本名美奈子。海軍軍医の父に従い海軍の要地を転々と移住、第二次世界大戦の終戦を広島県西条で迎えた。原爆投下直後の広島で救援隊として活動。結婚後、娘とともに夫の任地アラスカに移住した。11年に及ぶ滞在生活のなかで、アラスカの風土を背景に根無し草のように生きる男女の焦燥や孤独感を書いた『三匹の蟹(かに)』(1968)で芥川(あくたがわ)賞を受賞。続いて『幽霊達の復活祭』『ふなくい虫』(ともに1969)を発表。帰国後も旺盛(おうせい)な創作活動を続け『栂(つが)の夢』(1971)、『トーテムの海辺』(1973)、『がらくた博物館』(1975、女流文学賞受賞)、自伝的要素の濃い『霧の旅』第Ⅰ・Ⅱ部(1976~80)などを発表。さらに原爆体験を通して戦後日本人の精神と欲望の自己認識を描いた『浦島草』(1977)、『楊梅洞物語(ようばいどうものがたり)』(1979~84)、老荘思想への共鳴もみられる『寂兮寥兮(かたちもなく)』(1982、谷崎潤一郎賞受賞)、『啼(な)く鳥の』(1984~85、野間文芸賞受賞)、『海にゆらぐ糸』(1988、川端康成文学賞受賞)、『二百年』(1992)、『赤い満月』(1995、川端康成文学賞受賞)などを次々と発表した。これらの作品では、女と男、母と娘、さらには人間以外の存在をも含めた生命の連鎖を描き、女性の文学の新たな可能性を示した。ほかに評伝『津田梅子』(1989~90、読売文学賞受賞)、『むかし女がいた』(1991~94)などがある。芸術院会員。また、河野多恵子とともに女性で初めての芥川賞選考委員に就任(1987~97)した。
[田中夏美]
『『大庭みな子全集』全10巻(1990~91・講談社)』▽『『大庭みな子全詩集』(2005・めるくまーる)』▽『『三匹の蟹』(講談社文芸文庫)』▽『『津田梅子』(朝日文庫)』▽『『むかし女がいた』(新潮文庫)』▽『『浦島草』(講談社文芸文庫)』
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
出典 日外アソシエーツ「367日誕生日大事典」367日誕生日大事典について 情報
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